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加護なしの第七王女ですが、前世が限界社畜だったので離宮暮らしが快適すぎます!  作者: 小狐


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第17話 確認に来たときには、もう全部終わっていました

 庭の低木から、藁が取り外されていた。


 フェルドが朝のうちにやったらしく、部屋の窓から見ると、生け垣の端がすっきりしている。

 冬の間ずっと藁を巻かれていた低木が、ようやく外に出てきた感じがした。


 春が来た。


 今日の予定を確認すると、午後に王城会計部門の上席文官フェルマンが来ることになっていた。

 社交シーズン前の棚卸し確認というやつで、去年も同じ頃に来ていた。


 特に準備することはなかった。

 書類は昨日のうちに全部揃えてある。


 午前中は台帳の月次確認をした。

 今月の消耗品の使用量をぱらぱらと眺めながら、冬の間にどれだけ積み上げてきたかを改めて確認した。

 薪台帳の数字も、実際の残量と一致している。問題はなかった。


 昼食のあと、ルナが「今日は来客があるんでしたっけ」と聞いてきた。


 「午後に1人。棚卸しの確認です」


 「長くかかりますか」


 「そんなにかからないと思います」


 ルナは「分かりました」と言って、特に気にした様子もなかった。



 ◇



 「失礼いたします、フェルマンでございます」


 応接間に入ってきたフェルマンは、いつもよりわずかに早足だった。

 書類の束が厚い。


 「お時間をいただきありがとうございます。本日は恒例の棚卸し確認をさせていただきたいのですが、可能であれば少々急ぎ足で」


 「構いません。始めましょう」


 確認項目は順番に進んだ。


 消耗品の在庫と帳簿の照合から始まった。

 フェルマンが帳簿の番号を読み上げると、台帳の数字が一致した。

 次へ。修繕箇所の記録と残件確認。こちらも書類が揃っている。薪の残量と来年度の発注見込み。厚手の寝具の点検記録。年次評価での申告内容との整合確認。


 どの項目も、引っかかるところがなかった。

 フェルマンが読み上げる、台帳と一致する、次へ進む。そのリズムが5項目続いた。


 4項目目を終えたあたりから、フェルマンの手の動きがわずかに遅くなっていた。


 5項目すべてを終えたところで、フェルマンが手を止めた。


 「……すでに全部、揃っているのですね」


 「確認が入ることは毎年分かっていますから」


 「他の施設では……その、少々追われておりまして」


 「そうですか」


 「今年は社交シーズンの開幕が例年より少し早くて、各宮の準備が追いついていないところも多くて……離宮はいつ準備されたのですか」


 「冬のうちに、おおよそ終わっていました」


 フェルマンが少し間を置いた。


 「……冬のうちに」


 「薪の管理を始めたついでに、他の帳簿もまとめて確認しておいたので」


 前世で言うなら、年度末に慌てて棚卸しをするより、日々の記録を積んでおく方が楽、というだけの話だ。

 分かっていてもできない人は多かったが。


 フェルマンは書類に何か書き込みながら、小さくうなずいた。


 最終確認が終わり、フェルマンが立ち上がった。


 「今年も大変よく整っております。……この時期に全項目確認済みというのは、正直に言いますと珍しいことで」


 「毎年同じ時期に来るので、それに合わせているだけですよ」


 「……そう言い切れる施設は、少ないのですが」


 フェルマンが少し間を置いた。それから、さほど迷わずに聞いた。


 「差し支えなければ伺ってもいいですか。どこから手をつければ、この状態になるのか、少し想像がつかなくて」


 「特別なことはしていないですよ。毎年同じ時期に確認が来るのが分かっているので、逆算して記録を整えておいただけです」


 「……逆算、ですか」


 「確認が来るのが分かっているなら、そこから逆算して今何をすべきか決まります。年度末に慌てるより、日々の記録を積んでおく方がずっと楽で」


 「ほかに何かやっていることは……」


 「在庫が減ったら補充するタイミングを決めておくこと、くらいですね。ここが減ったらここを発注する、という基準を最初に作っておけば、あとは記録するだけなので」


 「……基準を、最初に」


 フェルマンはまた手帳に何かを書き込んだ。今度は少し長く書いていた。


 フェルマンは一礼して、書類を束ねた。



 ◇



 帰り際、フェルマンが少し迷ってから言った。


 「一点だけ、余談なのですが」


 「どうぞ」


 「今年の社交シーズンで来られている地方の貴族方の中に、離宮のことを尋ねている方が複数おられるとのことで。直接の話ではないのですが、耳に入りまして」


 「どんな内容で」


 「第七王女殿下の離宮が、なぜかよく整っているという話が、王城内である程度知られているようで……直接訪問したいという動きもあるかもしれないと」


 「そうですか。来るなら来訪の目的と日時を事前に連絡してもらえれば、受けます」


 「……はい。それをお伝えします」


 フェルマンは出て行った。


 離宮に関心を持っている貴族がいる。

 社交シーズンで来ている人たちが、わざわざここを話題にしている。


 来るなら来ればいい、という気持ちは本当だ。

 ただ、話題になっているという事実は少し腑に落ちなかった。


 自分はやりたいことをやって、快適に暮らせる場所を整えただけだ。

 記録を積んで、確認を怠らなかった。それだけのことがなぜ珍しいのか。


 庭の方で、フェルドが土を踏む音がした。

 春の作業が始まっているらしかった。

読んでいただきありがとうございます。

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