第1章 part3 謁見と尋問
神国・王城
漆黒の柱と純白の大理石で構成された玉座の間。天蓋の奥には、四座の玉座が並ぶ。
そこに鎮座するは神国を統べる四女王。
戦の終結報告を受けるべく、二人の将がその場に呼び出されていた。
ひとりは、銀髪の青年――シンリ・カイセ。女王親衛隊を束ね、『飛竜』を駆る男。
もうひとりは、漆黒の軽装を纏った青年――カゲハ。神国の影を担う『鴉部隊』の指揮官。
「……して、戦果の報告を」
真女王が冷ややかな声で促す。鋭い紺の瞳が、まっすぐに二人を射抜いた。
「はっ。西側諸国連合軍、殲滅率90%。残敵は撤退を開始。追撃は――見逃しました」
シンリは苦笑交じりに頭を垂れる。その態度に、真女王の眉がわずかに吊り上がる。
「甘い対応だな、私は殲滅を指示したはずだが」
「シンリはそういうとこ、昔から変わんないね」
と、柔らかな声が響いた。人女王だった。幼子の姿をした少女が、無邪気に椅子の上で揺れながら笑みを浮かべている。
「でも、命を繋ぐことも、大事だと思うんだよ？ね、他の女王様たちは怒っちゃうかもだけど、わたしは好きよ」
人を想う人女王らしい言葉だった。
「……私は別にどうでも良いさ。奴らがいくら逃げようと、いずれ最後には屍だし」
肩をすくめたのは獣女王。年齢すら感じさせぬ艶やかな声に、どこか底知れぬ残虐さと飄々とした気配が混ざる。
「問題はカゲハだ」
真女王の声が鋭くなる。その視線が黒装束の男へと移った。
「秘匿兵装であるはずの『鴉』を、戦場に九機も投入した。その上、敵の目の前で飛行、上陸、殲滅。何を考えていた」
「……必要でした」
カゲハは無表情のまま、淡々と返す。
「兵数、兵装、戦況。必要なら使う。それが我々です」
「貴様……」
真女王の瞳が怒気に染まりかけた、その瞬間。
「真女王」
ふんわりとした声が割って入る。神女王だった。白銀の髪と銀色の瞳を持つ、優美な女王が静かに微笑んでいた。
「“こっち”は生き残りなどいない様ですし、今回は特例としましょう。ですが、次はありません。それだけ、覚えておいてくださいね」
その声は柔らかく、母が子に諭すようでありながら、恐ろしく冷静だった。
「……承知」
カゲハはわずかに頭を下げる。
「次はない。よく覚えておけ」
真女王は睨みつけたまま冷たく言い放つ。
そして、その場の空気が一瞬にして変わる。
四女王全員から放たれた、尋常ならざる魔力の圧。
一瞬の感情の発露。まるで優しい母が我が子に怒りを覚えた時のような、それでいて常人ならば血反吐を吐いて倒れるほどの魔力の奔流が、シンリとカゲハに襲いかかった。
「――ッ！」
二人は膝をつき、息を呑む。まるで大気が石のように重く、体が鉛に変わるかのようだった。
女王達は、シンリとカゲハの2人にまさしく発破をかけたのだ。彼女らへ逆らうことへの愚かさを。
「……お前のせいだろカゲハ」
「……いや、おまえだから」
膝をつきながら、二人は睨み合う。
その様子に、獣女王が声を上げて笑った。
「アッハッハッ！こりゃ見事な飼い犬ぶりだ！あー、痛快痛快！」
人女王も、ころころと楽しげに笑い、
「ケンカしちゃダメだよ、仲良くしないと。はい、仲直りの握手」
と手を差し出す始末。
真女王は呆れたようにため息をつき、神女王は微笑を浮かべたまま目を細める。
そう――この国は、かくも異常で、かくも圧倒的だ。
魔法の常識を覆す兵器、【鴉】と【飛竜】
四女王に統べられた、神の如き国家。
そして今、世界はその存在に膝を屈しつつある。
だが、この物語はただの異世界戦記などではない。
あなたはまだ知らない。
この国の真の姿を。
この国が、いかに“素晴らしい”かを。
