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第3章 part4 顕現 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ


 聖堂の外で、ある異変が起きていた。


 隊員達の頭上、100メートル程ある聖堂の天辺から、月のような物が召喚されていた。


 白く丸い機械でできた月のようなそれは、大きな地鳴りと共に顕現したのだ。


「何をした」


 銃を構え、老人へ突きつける。


「お前らは贄だ。これから神に喰うて貰う為のな」


 バチュンッ


 老人の頭が吹き飛ぶ。




「よし、こいつが完全に再生を果たす前に、大四季 真里の救出を完了させる。全員、手順を崩すな」


 カゲハの冷静な指示に、ミランダとフリントは揃って短く答えた。


「了解」


 同時にカゲハは外の隊員たちと通信を繋げる。この大きな地鳴りが聖堂の内部だけでなく、外にも影響を及ぼしていると判断したのだ。


『そっちはどうだ。何か変化はあるか』


 数秒の沈黙の後、砂嵐のような雑音混じりの通信が返ってきた。


『報告。上空に巨大な建造物のようなものが顕現。形状は球体、詳細は不明。ただし周囲に異常な魔力の波動を観測。加えて、地上側より“人間以外”の死光体が多数出現。現在、接近中』


 その報告に、カゲハの眉がわずかに動く。


「魔獣型か……」


 外部から迫りくる死光体の群れ。その正体は、砂漠に生息する大型の魔獣が死後、光の魔力に取り込まれ死光体と化したものだった。狼型の魔獣“サンドハウンド”、巨大な蠍“デススコーピオン”、さらに砂中を徘徊する巨大虫“サンドワーム”といった、いずれも厄介な相手ばかり。


「殲滅しろ。“黒衣”と“クインズアームズ”の使用を許可する。死ぬなよ」


『了解!』


 その瞬間、隊員たちの声に少しばかり高揚とした色が混じった。危険と隣り合わせの任務であっても、鴉部隊の兵士たちはこうした状況を好んでいた。


 瞬時に、隊員たちの装備する“黒衣”が魔力粒子を纏い、全身を覆う漆黒の布がより硬質な物質へと変化する。


どのような魔力攻撃をも弾き返し、さらに柔軟性も併せ持つ究極の防具。


そして“クインズアームズ”が起動。隊員たちの頭部に鳥型のヘルメットが装着され、腕には大型の魔導銃が転送される。


 聖堂周辺に展開する死光体の数は、すでに一万を超える規模。


かつてこの軍勢に遭遇した者は、その圧倒的な物量と、不死身の肉体による蹂躙によって、例外なく消え去ったという。


 だが、鴉部隊は違った。


 ガガガガガガ!

 パシュンッ!

 バンバンバンバン!


 漆黒の銃口から放たれる魔力粒子の弾丸が、死光体たちの頭部を次々と撃ち抜き、魔獣型の死光体さえも貫通して破壊する。


建造物の影に潜んだ個体も、狙撃兵によって正確に排除されていく。


“クインズアームズ”は、辺りの魔力粒子を自動で吸収し、弾丸として装填。撃ち尽くす度に敵を倒すことで魔力を補充し、破壊すればするほど威力が増すという殲滅兵器。


その形状も使用者の魂の性質を反映し、大型の対戦車ライフル、ガトリングガン、ショットガンと様々に変化する。


「あー……こりゃ俺の出番は無さそうだな」


 戦闘の様子を見下ろしながら、セルヒオは肩をすくめ、やや残念そうに呟いた。


『無い方がいいんじゃない?目立たない部隊ってのがウチの看板だしさ』


 通信機越しのレイが、呆れたように返すも、状況の確認は怠らずデータの解析と警戒を続けていた。



《聖堂内部》


「外の状況は問題ないようだ。対象は地下の墓地にいる。行くぞ」


 カゲハはミランダとフリントを率い、聖堂の奥へと進もうとした。その時だった。


「いやぁ……実に強いな。今まで相手にしてきた霞のような魂とはまるで違う」


 聞き覚えのある声が再び暗闇から響く。


「!」


 先ほど頭部を吹き飛ばしたはずの老人。その顔が再び完全な形で再生し、薄ら笑いを浮かべていた。


「再生速度が速い……こいつ、外の死光体とは格が違うぞ」


 フリントが警戒しながら魔導銃を構える。


 老人は、不気味に「げっげっげ」と笑い、次の瞬間、体内から迸る強烈な光を放った。


「!? ミランダ、避けろ!」


 カゲハが叫ぶ間もなく、光の奔流がミランダを吹き飛ばし、聖堂内の壁を突き破り闇に消えていった。


「くっ……!」


「フリント、伏せろ!」


 咄嗟にカゲハが叫び、フリントは即座に地面に伏せた。直後、頭上を金属が擦れ合うような音を伴いながら光の刃が駆け抜ける。


「……これを弾くか。面白い奴だ」


 カゲハは、“黒衣”と同素材の短剣で光の刃を弾き、老人の視線を逸らさずに攻防を続ける。


『だ…大丈夫です隊長。黒衣があったおかげで貫通は防げました。衝撃だけで済んでます。任務行動に問題ありません』


 吹き飛ばされたミランダから、すぐに通信が入る。


「フリント」


「はい!」


「ミランダと合流して、大四季 真里の救出を最優先。俺はこいつを押さえる」


 カゲハの声は、いつもの冷静なものではなく、険しさを帯び、目を合わせずに命令を下す。


「了解! 隊長も、ご無理なさらず!」


 フリントは即座に駆け出し、ミランダのもとへと向かった。



《聖堂外・広場》


「ちっ、どれだけ湧いてくるんだよ」


「安心しろ、隊長たちが状況を打破してくれる。それに、この程度の奴らなら怖れるに足りん」


 広場では、死光体の山が築かれ、再生を繰り返す死体を徹底して撃ち抜く隊員たち。光属性を帯びた死光体に対し、通常の魔法では効果が薄く、クインズアームズの武装による制圧のみが有効だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 依然として止まぬ地鳴り。その正体を誰も掴めずにいたその時。


「見ろ、上だ!」


 誰かの叫びに隊員たちが一斉に顔を上げる。


 聖堂の上に浮かぶ巨大な月のような物体。それが動き始めたのだ。大きな軋みと地鳴りを伴い、球体の表面に亀裂が入り、中央から左右に開いていく。


「あれは……月じゃない……扉だ」


 開かれた扉の奥、暗闇の中から鋭い光の眼が現れ、次第にその姿を露わにしていく。


「くっ……! 再生速度がさらに上がってやがる!」


 死光体たちの勢いは増し、さすがの鴉部隊も疲労の色を隠せなくなっていた。


「レイ!副隊長!援護を!」


 隊員たちからのSOSが飛び、即座に魔導ヘリから通信が入る。


『あいあいさー! こっちもいくぞ』


『了解、セルヒオ出る!』


 ズンッと砂塵を巻き上げ、ヘリからセルヒオが着地。その瞬間、上空の“月”が完全に扉を開き、内部から純白の鎧を纏った巨大な生物が現れる。


 ズズズズン……!


「な……あれは……!」


 驚愕と恐怖に包まれる隊員たち。その姿は、先の作戦会議で壁画の資料に描かれていた、神国に伝わる“聖獣”そのものだった。



【聖獣】

 神話の時代より伝承にのみ語り継がれ、今や古びた文献の中でしか存在を許されぬ、幻の存在。かつて各地の大陸に降り立ち、民を蹂躙し尽くしたそれらは“災厄”と恐れられ、人の手に余る天災として記されていた。


多くの勇者たちが命を賭して挑み、その殆どを退けてきたとされるが――中には、彼らでさえ倒し得なかった怪物が存在する。


 聖獣はその名の通り聖の属性を纏い、あらゆる魔法を無効化、もしくは大幅に減衰させる性質を持つ。


さらに、50メートルを超す巨体と常軌を逸した膂力による蹂躙は、当時の戦士たちすら太刀打ちできず、あらゆる集落や都市を灰燼に帰したという。その正体は、“次元の狭間”に蠢く侵略者――異界の産物だとも記されている。


 そして今、その古の記録に残された“倒し得なかった災厄”が、ユーガ国北部のダンジョングラウンドに顕現した。


 名は【聖獣ウル=ティマ】。


『ありゃヤバイ! みんな、ヘリに集合ーッ!』


 レイの叫びが通信越しに響き渡る。その声を合図に、死光体を蹴散らしながら戦っていた隊員たちは一目散に魔導ヘリへと駆け寄り、次々と飛び乗っていく。


「レイ、あれは一体なんだ!」


 隊員のひとりがレイに尋ねた。その声には、焦りと焦燥が滲んでいる。無理もない。あの巨大な怪物は、そこに存在するだけで圧倒的な威圧感を放ち、生物としての理屈を超越していた。


『聖獣ウル=ティマ! 勇者ですら倒せなかった化け物だよ! それでわかるだろ!』


 レイの声には焦りも恐怖も感じられず、むしろどこか興奮を孕んでいた。


 目の前の神獣は、50メートルを超える体躯を誇り、下半身は厚い外殻で覆われた蠍のような鋭利な鎧を纏い、上半身は人型に似た六本の腕を持つ昆虫の姿。


 だが、ただの獣ではない。聖の魔力粒子を常に纏い、あらゆる魔法を霧散させる絶対の存在。しかも、透明化しているはずの魔導ヘリを、その透き通った眼で正確に捉えていた。


「ヤバイ、死光体の再生がほぼ完了してる……アイツのせいか」


 ヘリの窓から下を覗いた隊員が、事態の悪化を察して呻く。


 だが、その隣でレイはまるで気にも留めず、いつもの調子で笑みを浮かべた。


『だいじょーぶ!セルヒオ副隊長、頼んだ!』


 そう告げられたセルヒオは、薄く笑うと、肩を軽く回して“黒衣”を展開する。


「はいよ。隊長の言う通り、デカいのが来たな」


 目の前の神獣は、悠然と巨大な腕を振り上げ、ヘリ目掛けて叩き落とそうとしていた。隊員たちが慌てて射撃を加えるが、神獣は微動だにしない。


「やばいやばい、レイ、回避!」


 迫る巨大な手。間違いなく直撃すれば、ヘリなど紙屑のように潰される。


 その刹那――


 空気を裂き、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。甲高くも鈍い音が空間を支配し、砂漠の空気すら震える。


「――!?」


 神獣ウル=ティマの視界が、突如としてぐるりと天地を返す。


 あの神の目線から、すべてを見下ろしていた巨体が、一瞬にしてひっくり返ったのだ。


「うおおおおおっ!」


 セルヒオが咆哮を上げる。その拳は、魔導アーマー“鴉”と同様、周囲の魔力粒子を操り、空間すら掴み取る特殊魔道具“黒衣”の能力を極限まで引き出していた。


 しかも、彼はそれを機械頼りではなく、生身の胆力と技量のみで成し遂げてみせる。


 振り上げた拳は、神獣の巨体を下から打ち上げ、空中へと弾き飛ばした。


『あの筋肉バカ!こっちに吹き飛ばすなぁ!』


 レイが叫び、操縦桿を操作してヘリを急速上昇させる。船内の隊員たちは不意の重力変動に翻弄され、狭い機内でもみくちゃになった。


 聖獣の体躯だけでなく、セルヒオの拳に纏った莫大な魔力粒子が拡散し、まるでショットガンのように弾け飛ぶ。


飛散した粒子弾は、周囲の死光体たちを一斉に吹き飛ばし、その鎧ごと粉砕する。


「ついでにこの鬱陶しいのも、まとめて掃除してやるよ!」


 再び、セルヒオの拳が虚空を撃ち抜いた。


魔力粒子を纏ったその拳の一撃は、周囲を埋め尽くしていた死光体の群れを、再生など到底不可能なほど粉々に打ち砕いていく。


 もはや“隠密部隊”の一員とは思えない荒々しい戦闘ぶりだった。だが、この場においては、その常軌を逸した力こそが必要だったのかもしれない。


 神獣ウル=ティマの巨体が、天地を引っくり返すように宙を舞い、逆さまのまま大地へと叩きつけられる。


セルヒオの拳が放った衝撃波は、地表の死光体をも巻き込み、辺り一帯を吹き飛ばす。


「ちっ……まだ原型を留めていやがるか。だが、やはりここにいて正解だったぜ」


 セルヒオは満足げにニヤリと笑い、懐から一枚の面を取り出す。それは、彼ら“鴉部隊”の象徴たる鳥型のヘルメットではなく、異様な紋様が刻まれた古めかしい面だった。


 セルヒオがその面を顔に装着した瞬間、周囲の空気が変わる。ひときわ鋭く、殺意が跳ね上がる。


「うおおおおお!!!」


 獣のような雄叫びが辺りに響き渡る。


 ヘリ内の隊員たちは、その異様な光景に息を呑んだ。


「あれも……クインズアームズの類いなのか?」


 窓越しにその姿を見下ろした隊員の声は、震えを含んでいた。


『あー……まあ、そんな感じ』


 レイは半ば呆れ気味に答えた。


『あいつ、元“殺戮者”だからね。これは、その頃の名残みたいなもんよ』


 カゲハ以外の部隊員の情報は、基本的に閲覧自由だ。だが、進んでセルヒオの過去を覗こうとする者は少ない。だが、レイは例外だった。


彼の異質な過去を知った上で、今もこうして部隊の中に居る理由も理解していた。


『ま、私たちには手出ししないし、見ておいて損はないよ』


 セルヒオは、その巨体の神獣へと突き進む。既にウル=ティマは体勢を立て直し、今度はセルヒオただ一人を標的に定めていた。


 神獣ウル=ティマの腕から放たれる、眩い光。数千メートル先をも撃ち抜く光の矢が、セルヒオへと放たれる。


 しかし、彼は怯むことなくその場に留まり、両拳を高々と掲げた。


『おおおおおお!!!』


 空を殴り続ける。周囲の魔力粒子を掴み、操り、その拳に纏わせて撃ち放つ。


 次の瞬間、ウル=ティマの下半身から、硬質な鎧が砕け散った。


 ズズン……!


 鈍く重い音を立てて、神獣ウル=ティマは沈黙する。四肢は吹き飛び、下半身は粉々に砕け散っていた。


「やったか!」


 ヘリ内では歓声が上がった。残るは隊長・カゲハの帰還を待つのみ。だが、その束の間の安堵も、即座に打ち砕かれる。


 リンゴーン……リンゴーン……リンゴーン……


 聖堂の奥から、どこかで聞き覚えのある鐘の音が鳴り響いた。おそらく、聖堂の最上階に据えられた鐘楼だろう。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 再び、地鳴り。


『まさか……』


 その映像を目の当たりにしたレイは、急ぎ端末を操作し、神獣ウル=ティマの文献を再確認する。


 そして──月の裂け目から、今度は複数の赤い眼光が覗く。


 そこに、三体の神獣が姿を現した。


「あー……そういう感じなのね」


 セルヒオは頭を掻き、身構えた。


 降り立つ神獣たち。それは剣を携えた者、弓を構えた者、そして巨大な盾を持つ者。


まるで、侵略者を討つために生み出された戦士たちのようであった。


『みんな、休んでる場合じゃないね。セルヒオを最大限支援しつつ、現状維持。カゲハが戻ったら、即時脱出!』


 レイが即座に指示を飛ばす。


「だが、一体どういう事だ……!」


 覚悟を決めた隊員も、異常な状況に思考が追いつかない。


『勇者の文献にあった、“封印”ってのが事実だったんだと思う。他は倒せても、こいつはそれが出来なかった。おそらく際限の無い存在、本体が別次元にいるんだよ』


「くそっ……鴉があれば、まだマシなのに……」


隊員は、本来の鴉部隊装備の無さを悔やみ、奥歯を噛み締める。


『だいじょーぶ!あそこで生身で鴉みたいなことやってるバカが頑張るから、私たちは支援に徹する!さあ、行くよ!』


「了解!」



 こうして、ダンジョングラウンドでの、絶望の消耗戦が幕を開ける。


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