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劣化コピーの偽勇者、禁術チートで異世界ジャーニー~役立たずと追放された俺、最強禁術で“真の勇者ごと”ぶち抜きます〜  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第4章 暁霊祭

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第36話 炎の魔獣

「……ふぅ」


 気絶した真嶋と、寝息を立てる少女を見下ろしながら、俺は息を吐いた。

 会場の喝采は未だやまない。

 けれどそろそろ、姿をくらまさなくては。

 そんな思いが脳裏をよぎった、その瞬間だった。


 ――ドゴォォォン!!


 闘技場の中央、石造りの床を突き破って、炎の柱が噴き上がった。


「なっ……!?」


 咄嗟に飛び退き、爆風を避ける。

 見上げると、穴の空いた床の奥から、うねるような十の炎塊が現れ、空中へと放たれていく。


 ただの火じゃない。

 禍々しい。

 不気味なオーラを纏っている。

 まるで、それ自体が意思を持っているかのような。


「なんだ、あれは……」


 それらは空中でしばらく旋回すると、やがて近くの檻へと突っ込んだ。

 そこには今朝、勇者真嶋の実力を披露するためだけに用意された、デモンストレーション用の魔物たち。

 十体あまりが檻の中でひしめきあっており、いずれも危険度Bという最悪の檻だ。

 炎は魔物たちの体に絡みつき、ずぶずぶと染み込んでいく。


 檻の中から獣の唸りが響いた。

 そして。


 ――ギシャアアアアッ!!


 裂けるような金切り声と共に、炎をまとった異形の魔獣が檻を突き破り、跳び出してきた。

 赤黒く焼けただれた体表、燃え上がる鬣。

 全身から殺気と熱気を放つ、まさに災害そのもの。


「まじ、かよ……」


 それは一体だけではなかった。

 檻の中から次々と炎の魔獣が飛び出していく。


「ぎゃあああっ!」


「逃げろ、いやだ、くるなァアアッ!」


 兵士が、観客が、次々に悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 けれど、間に合わない。

 一部の魔獣は既に観客席へと乗り上げ、火炎を吐いている。


「くそっ、どうすれば……!」


 足が止まる。

 相手は一体じゃない、十体だ。

 一匹一匹が元々Bランク相当。

 不気味な炎に包まれた今は、それ以上に思える。

 そんな化け物が一斉に暴れ回っている。

 人であふれた会場を。


 一般人も、子供も、皆が死ぬ。

 下手をすれば、百人、千人単位で。


「……っ」


 何ができる?

 禁術を使う? 

 広範囲殲滅で一掃?

 ……いや、だめだ。

 ここは街のど真ん中だ。

 誤爆すれば、助けるどころか余計な被害を広げる。


「どうすれば……!」


 拳を握る。

 歯を食いしばる。

 迷っている間にも一人、また一人と業火に焼かれていく。

 この場にいる全員を救いたい。

 けれど、誰かを救えば誰かが救えない。


 仕方ないのか、選択するしかないのか。

 そんな現実が喉を締め上げてくる。

 その時だった。


「――ユウト様! 静寂福音セラフィックカームを!」


 上空から、透き通った声が降ってきた。


「っ……!?」


 顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは、眩い銀の光。

 六枚の羽を広げた天使のような存在が、空を舞っていた。

 その腕には、ぼろぼろの姿のミリア。

 深紅の長髪は乱れ、ドレスは焦げ、体には無数の傷。

 それでも、その瞳はしっかりと開かれていて、俺を見ていた。


「あれはミリアと……セラフィ……?」


 変わっていた。

 見た目も、雰囲気も、声さえも。

 でも間違いない。

 セラフィだ。


 それに、あのミリアの傷。

 迷子のセラフィを探しに行った先で、何かあったんだ。

 あの炎の魔獣に関係する何かが。


「――静寂福音セラフィックカーム!」


 俺は叫び、術式を展開する。

 魔力が収束し、体の周囲に柔らかな結界が張られていく。

 上空のセラフィがそれを確認し、ミリアへと小さく頷いた。


 次の瞬間。

 ミリアがゆっくりと、薬指にはめていた銀の指輪を外した。

 淡く輝いていた魅了の抑制魔具が解放される。


 ぶわり――と。


 空気が、変わった。

 風も音も、人々のざわめきさえも、すべてが彼女に惹きつけられていく。

 混乱していた兵士たち、泣き叫んでいた観客たち、そして暴れていた炎魔獣さえも。


 空に浮かぶ一輪の光。

 それを見上げるこの場の全員が、無意識に息を飲んだ。

 ミリアという一人の少女に、完全に注意を吸い寄せられていた。

 

 静まり返った空気を最初に破ったのは、魔獣だった。


「グアアアアアアッ!」


 耳をつんざく咆哮と共に、会場中に散らばっていた十体の炎魔獣が一斉に反応した。

 唸り声、鉄を削るような咆哮。

 理性のない暴虐が、ただ一つの光に向かって牙を剥く。

 空に浮かぶその姿へ、狂ったように吠え、突進する。


 十体の巨躯が、火焔を纏って一斉に地を蹴る。


 ズガァァン!!


 爆音と共に、炎の獣たちが闘技場を飛び出し、大ジャンプで空を目指す。

 だが、それは届かない。

 はるか上空に浮かぶセラフィとミリアに対し、それは明らかに無謀な跳躍だった。

 けれど本能に従い、獣たちは空を裂かんばかりの勢いで飛びかかっていた。


月防晶ルナティックシェル!」


 セラフィの羽が広がった。

 六翼から流れる魔力が、場内に輝く軌跡を描く。

 闘技場全体をぐるりと囲んで、純白の結界が展開された。

 まるで、観客席と闘技場を切り離す壁のように。


 結界の内側の閉じられた空間には、十体の炎魔獣。

 そして、地上でただ一人立つ俺。


「そういうことか……!」


 俺はようやく理解した。

 これは舞台だ。

 誰も巻き込まない、安全な決闘の場。


「今です! ユウト様!!」


 セラフィの声が響いた。

 俺は応えた。


「――任せろ!」


 右手を天に掲げ、魔力を一点に収束する。

 炎魔獣たちは再び牙を剥いて、上空を睨みつける。

 そのすべてを飲み込むように俺は叫ぶ。


灰燼葬カタストロフ!!」


 地面が焼けた。

 空気が爆ぜた。


 次の瞬間、前方に広がった扇状の領域すべてが、純白の熱に包まれる。


 轟音と共に、十体の魔獣が一瞬で塵へと変わった。

 黒い煙すら残さず、地に火の跡だけを残して、すべてが消え去った。


 静寂。

 風が吹き抜ける音すら、戻ってこない。

 灰の舞う闘技場の中心に、俺はただ、拳を掲げて立っていた。

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