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劣化コピーの偽勇者、禁術チートで異世界ジャーニー~役立たずと追放された俺、最強禁術で“真の勇者ごと”ぶち抜きます〜  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第4章 暁霊祭

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第34話 魅了と魔術(別視点)

前話に続き今回も別視点の物語です。

ミリアとセラフィの奮闘をご覧ください。

「み、みりあさまっ!」


 燃えさかる火炎の魔人と対峙するミリアを見て、セラフィが震えた声を上げた。

 あまりに禍々しい存在感。

 燃え盛る巨体に、人の面影はもはやない。

 肌は炭のように黒く、裂け目からは絶えず灼熱の炎が漏れ出している。

 その腕はまるで鍛冶場の鉄槌。

 振るわれるたび、空気が熱に軋む。

 ミリアは一歩前に出て、振り向いた。


「大丈夫です、セラフィさん」


 にこっと、いつもの柔らかい笑みを浮かべる。


「あなたには指一本、触れさせませんから」


 そう言ってから、踵を返す。

 その瞬間、魔人が突っ込んできた。

 咆哮とともに振り下ろされた炎の拳が、地面を抉る。

 ミリアは一拍遅れて飛び退き、すれすれで衝撃波を回避する。


「っく、はああっ!」


 後方宙返りから体勢を整えると、すかさず両手を組む。


氷槍アイスランス!」


 空間が歪み、ミリアの前方に氷の魔槍が十数本、直線状に展開される。

 一斉に射出されたそれらが、火炎魔人の胴体と腕へと突き刺さった。

 ズドン、ズドン、と爆音。


「なっ……」


 しかし魔槍を受けたはずの魔人は、怯むどころかさらに勢いを増して迫ってきた。

 槍が深く刺さっている腹部をものともせず、マグマのように焼け爛れた拳を構えて突進する。


魅晶壁ルージュバリア!」


 目の前に展開された魔法障壁が、拳の直撃とともに粉々に砕け散った。

 爆風が吹き荒れ、ミリアの体が吹き飛ばされ、石畳の床に叩きつけられる。


「うっ……!」


 背中が熱に焼け、服が焦げる。

 だがそれでも、ミリアは立ち上がった。

 髪は乱れ、ドレスは裂け、頬には擦り傷。

 しかしその目は、決して折れていない。


 ミリアは素早く腰を落とし、指先に魔力を集中させる。


「……あまり()()()は使いたくありませんでしたが、仕方ありません」


 自らの爪を走らせ、血を引くように魔法陣を空中へ刻む。

 それは、彼女の体に流れる淫魔サキュバスの血に刻まれた攻撃魔術。


魅焔獄チャームインフェルノ!」


 魔人の足元に、六芒星が閃いた。

 瞬間、地面から無数の赤紫の火柱が吹き上がり、魔人を包囲する。

 その炎は熱による攻撃ではなく、精神と魔力そのものを蝕む()()()()

 咆哮とともに魔人がのたうち回り、足元をふらつかせる。

 しかし。


「……まだ、立ってくるのね」


 煙の中から現れた魔人は、呻き声を漏らし、ぐらりとその巨体を起こす。

 ミリアは唇を噛む。

 魅焔獄チャームインフェルノで仕留めきれなかった。

 一体何をすれば、倒すことができるのか。


「グゴアァアアアア!!」


 魔人が吼えた。

 轟音と共に、地を這うような火炎の奔流が広間を薙ぎ払う。

 咄嗟に展開した防壁が爆ぜ、ミリアの細い身体が地面を転がる。


「……くっ、ぁ……っ!」


 焦げた布、裂けた袖。

 腕には火傷が走り、膝は石にぶつけて血が滲んでいる。


「みりあさま……!」


 セラフィの悲痛な声が響いた。

 今にも泣きそうな顔で、彼女は一歩もその場を動けずにいた。

 ミリアの視線が、ふと彼女と重なる。


(……この子が、わたしを外へ連れ出してくれた)


 忘れもしない。

 あの暗い屋敷の奥で、ずっと眠っていた心。

 誰にも迷惑をかけたくないと閉じこもり、何も信じられなかった自身の手を、真っ直ぐに引いてくれたのは……。


(あなた、だった)


 ミリアは、ふっと微笑んだ。

 血まみれの手を前方に突き出す。


「……お父様、お母様。私に、大切なものを守る力をください」


 微熱を帯びた声で、静かに祈る。

 彼女の体に宿る、淫魔女王サキュバスクイーンの母から受け継いだ魔性の力と、父ドルジーク譲りの魔術の才。

 二つの特異な力の波動が混ざり合い、そして爆ぜた。


魅影連弾ラプソディア・ミスティーク


 術式が展開されると同時に、ミリアの背後に浮かび上がる無数の幻影。

 赤紫のドレスを纏った()()()()()たちが、ふわりと宙に舞い魔人を取り囲む。

 それらは幻像ではない。

 サキュバスの血が具現化した、精神干渉の刃。


 魔人の動きが鈍る。

 動くたびに周囲の空間が歪み、魔人の意識が裂かれていく。

 

「グ……ギゴ……ッ!」


 魔人が呻き声を上げ、抗う。

 ミリアは食いしばった歯の奥から、もう一度叫んだ。


「セラフィさんを……これ以上、怖がらせないで!」


 力の限り、魔力を解放する。

 魔人の周囲を舞う魔術で作り出した分身が、渦を巻くように絡まり合っていく。

 やがてそれは一本の槍となり、魔人の胸を深く貫いた。


「ッオオォォ……」


 刹那。

 魔人の体がビクリと痙攣し、内側から砕けるように崩れ落ちた。

 爆炎のない、静かな散り方だった。

 まるで、ようやく苦しみから解放されたかのような。

 広間には、再び静寂が訪れる。


「……や、った」


 ミリアはその場に崩れ落ちた。

 もはや立つ力も、声を出す気力も残っていない。

 だが、顔には安堵の微笑が浮かんでいた。

 駆け寄ってきたセラフィが、その身体を抱きしめる。


「みりあさま……! ほんとうに、ほんとうにすごかったです……っ!」


 涙ぐむ声に、ミリアは小さく頷いた。


「ふふ……少しは、格好よく見えました?」


 ミリアの問いかけに、セラフィは強く何度も頷いた。

 その金色の瞳は涙で潤みながらも、誇らしげに輝いている。


「はいっ、すっごく、すっごく……っ! つよくて、かっこいいおひめさまでした!」


 その言葉に、ミリアの目尻がふっと緩む。

 傷だらけの手が、そっとセラフィの頭を撫でた。

 そのときだった。


 ──うおおおおおおおっ!!


 地上から、爆発音のような大歓声が地下にまで響き渡った。

 観客の喚声、祝福のざわめき、割れんばかりの拍手。

 神殿都市の闘技場を揺らす熱狂。


「たいかい……?」


「……ええ、きっと」


 二人は瞬間、思い当たった。

 あの甲冑の戦士と勇者マシマの戦いで、何かあったのだ。


「ッ――!?」


 空気が変わった。

 視線を転じると、先ほどまで鎮まりかけていた火炎の核が、まるで地上の騒ぎに呼応するようにぼこぼこと蠢き出していた。


「こ、これ……さっきもあったやつです……!」


 火炎の球が一つ、また一つと、表面を弾け飛ばすように分離し始める。


 一つ、二つ、三つ……十。

 全身の羽毛が逆立つような異様な気配。

 赤黒く燃える十の炎塊が、重力に逆らうように浮かび上がる。

 それらは全て、ただの神官を炎の魔人へと変貌させた、あの炎だ。


「あ……あ……」


 セラフィは絶望した。

 ミリアが傷つきボロボロになりながら、ようやく倒した炎の魔人。

 それを創った元凶が、先ほどの十倍も現れたのだ。


 それらは空中でぐるぐると回りながら、ミリアに近づいてくる。

 まるで意思を持っているかのように、傷だらけで動けないミリアを中心に軌道を描き、ゆっくりと、しかし確実に間合いを詰めてきていた。


「……っ!」


 セラフィは震える足を一歩踏み出しかけて、立ちすくんだ。

 動かない。

 動けない。

 心臓が、ぎゅうっと潰れるように苦しい。


(どうして……どうして、こんなことに……っ)


 視線の先には、息も絶え絶えのミリアがいた。

 地面に手をつき、燃え残る炎の気配を浴びながら、それでも凛とした顔をしている。

 だけど、ミリアはもう戦えない。

 あれだけの死闘を繰り広げたのだ。

 立ち上がることすらできないのは明らかだった。


「やめて、やめて……っ!」


 セラフィは叫んだ。

 小さな声だった。

 か細く、空気にすら届かないほどの、震える声。


(いやだ、いやだいやだ。みりあさまが、やられちゃう。わたしをまもってくれた、ミリアさまが……!)


 胸の奥で、何かがひび割れたように痛む。

 ミリアが現れてからの日々は、すべてが楽しかった。

 優しくて、綺麗で、憧れのお姫様のようなミリア。

 スイーツを一緒に食べてくれた。

 お話をいっぱいしてくれた。

 さっきだって、自分のために命を懸けて戦ってくれた。

 そんな人を、こんなところで失いたくない。


「やだ……やだよ……みりあさま……っ!!」


 涙が頬を伝い、声が上ずる。


(こんどは……こんどは、わたしがまもるばん!)


 炎の塊がひとつ、ミリアへと軌道を変え、鋭い尾を引きながら飛びかかる。


 視界が赤に染まる――かと思った刹那、世界は純白に包まれた。


 音が消え、熱が消え、すべての感覚が遮断されたかのような、純白の輝き。


 そこにいた全ての存在が圧倒される、荘厳な()()が降臨する気配。


 セラフィはそっと、意識を手放した。

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