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劣化コピーの偽勇者、禁術チートで異世界ジャーニー~役立たずと追放された俺、最強禁術で“真の勇者ごと”ぶち抜きます〜  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第4章 暁霊祭

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第28話 噂になっているようで

 神殿を後にし、広場へ戻ったときのことだった。


「あれ、なんか人だかり増えてないか?」


 ついさっきまでは閑散としていた広場の一角に、いつの間にか屋台の列と人波ができていた。

 よく見ると、大きな掲示板と簡易テント。

 その前に並ぶのは、案内書類と受付カウンター。


「……あれ、ギルドの制服?」


 制服姿の職員が、通行人にチラシを配っていた。

 セラフィが道端に落ちていたチラシを一枚拾い上げる。


「むむむ……セラフィ、よめません」


 うん、知ってた。

 そのチャレンジ精神には感服だよ。

 ふふっと笑ってミリアがセラフィの背後からチラシをのぞき込む。


「……来たれ、暁霊祭・武闘大会。参加者募集中! ……だそうです」


「たぶん、さっきの神殿ツアーの説明にタイミング合わせてたんだろうな」


 ここまで露骨にやるかってくらい、完璧な宣伝だなあ。


「ちょっ、そこのお兄さんっ!」


 チラシを配っている職員の一人から、ひときわ高いテンションの声が飛んできた。


「はい?」


「その黒髪黒目に落ち着いた佇まい! そしてお仲間にきゃっわいい銀髪ちゃんと、どちゃくそ美人のお姉さん!! もしかしてあなた……期待のルーキー冒険者、カミヤ・ユウト様じゃありませんかっ!?」


 ……何その勢い。

 声だけじゃなくて、目もキラッキラに輝いてる。

 ギルドの制服を着た女性職員だった。

 年は二十代前半くらい?

 ポニーテールが風にはためき、愛想と元気が全開って感じだ。


「おお~、見れば見るほど……っ!」


 ルンルンとスキップしかねない足取りで駆け寄ってきて、俺の目の前でぴたりと止まる。

 これまで出会ってきたギルド職員たちとは、まるで雰囲気が違うな。

 リリアスやエルミオンの支部では、どっちかというと品のある落ち着いたタイプが多かった。

 この人は……うん、元気印の太陽系ギルド娘って感じ。


「期待のルーキーかどうかは知りませんけど、まあ……俺が神谷悠斗です」


「ひゃあ、すごい、本物だあ……! アタシ、ファンなんですよぉ! 港町リリアスの盗賊団討伐も、砂漠の毒蠍(サンドスコルピオ)も……ぜーんぶ聞いてますっ!」


 顔を真っ赤にしながら、俺の手をがっしと握る。

 ぶんぶんと両手を振られて、さすがに俺も苦笑いするしかなかった。

 その隣では、セラフィがきょとんと小首をかしげている。


「俺たち、そんなに噂になってたんですかね?」


「なってますともっ! むしろ、なってないと思ってたんですか!? 今ギルド内でいちばん熱い話題なんですから~!」


 いや、そこまでとは……。


「ずっと会ってみたくて……うわー、手温かい……サインって頼んでもいいですかっ?」


 職員の女性が、さらに一歩ぐいっと詰め寄ってくる。


「ほわーすっごい、綺麗な瞳に凛々しいお顔……わあ」


 って、ちょ、近い近い!

 肩と肩が触れるどころか、鼻先がぶつかりそうな勢いで顔が近づいてきた。

 自分で言うのも恥ずかしいけど、しかも目が完全に“推しを前にしたオタク”のそれだ。


「わ、わかりましたから、ちょっと……」


 思わず一歩、引きかけたその瞬間だった。


「――で、なんのご用件でしょうか?」


 ふわりと冷たい声が差し込んだ。

 気づけばミリアが、俺と職員の間にスッと割って入っていた。

 さりげなく、でも確実に、俺と彼女の距離を引き離すように。


 優雅な微笑みを浮かべたまま、しかし瞳だけがすっと細くなる。

 笑ってるのに、内心は全然笑ってないのがわかる。

 こ、怖い。


「あっ、ど、どうも……」


 職員が一瞬たじろいだのを見て、俺は軽く苦笑した。


「そ、それでですねカミヤ様っ! ご覧の通り、こちらは明日開催の『暁霊ルクス祭記念・武闘大会』の参加受付ブースなんですが」


 気を取り直した職員は、再開させた説明をそこで一旦区切る。

 そして周囲に誰もいないのを確認して、ひそひそと声を潜めた。


「実は、ギルド推薦枠にぽっかりと一人、欠員が出ちゃいまして……っ!」


「欠員?」


 思わず問い返すと、職員は急に声を落として、こっそりと囁くように言った。


「そぉ~なんですよ……最近、こっちの方でも増えてるじゃないですか、“実力者だけを狙った通り魔事件”。あれに、やられちゃったらしくて……。しかも被害者は、ランクBの冒険者さんだったそうで」


「ランクBが……?」


 さすがに驚いた。


「そんじょそこらの魔物なら問題なかったはずなんですけどね~。気を抜いたのか、よほど奇襲がうまかったのか……う~ん、情けない話ですぅ……」


 実力者だけを狙った通り魔、か。

 そういえばエルミオンからザンドラへ向かうときも、同じ理由で護衛の空きが出てたんだったな。

 Cランクの俺だって、表面上は実力者扱いになってきてるわけで……うかつには歩けなくなるかも。


「とーりま……?」


 不安げな声が聞こえて、振り返るとセラフィが眉をひそめていた。

 その顔を見てミリアが静かにしゃがみこみ、やさしく語りかける。


「セラフィさん。通り魔というのは、理由もなく突然、誰かを傷つけようとする悪い人のことです。だから、今は少し注意が必要なんですよ」


「……ひ、ひうっ」


 セラフィが小さく身をすくめ、しおしおと俺の足元にくっついてくる。


「ゆーとさまのおそばを、ぜったいにはなれません……っ」


 抱きついてきた腕に、微かな震え。

 よかった、さっきまではしゃぎすぎてどっか行きかけてたし。

 こうしてくっついててくれた方が、正直ありがたい。


「うん。ずっとそばにいな。……俺も、気をつけるからさ」


「で、本題なんですが、その欠員の代わりをお願いできないかってことです! 実力は申し分なし! 話題性もバッチリ! いっそ華々しく優勝して、今以上に注目度アップしちゃいましょ! 出場、お願いできませんかっ!?」


「…………」


 俺は数秒沈黙したあと、静かに言った。


「……ごめんなさい。遠慮しておきます」


 あからさまにがっかりした顔が、目の前でぱたんと落ちた。


「えぇぇぇぇぇぇ!? な、なんでですかああああ……!」


 理由? 

 そりゃあ、出られるわけないよなあ。

 会場には勇者である真嶋が来るって宣伝されてるし、下手に出場して顔を見られでもしたら、王都に“事故死扱い”で処理された俺が生きてるってバレる。

 何にも悪いことしてないのに隠れなきゃいけないってのは腑に落ちない部分もあるけど。

 でもまあ、しょうがない。

 今はまだ、そういうタイミングじゃないんだ。


「え~残念っ! 参加者しただけで賞品がもらえますし、冒険者であれば戦績に応じてランクアップもありえるのにーっ」


 そう言って係員がパンフレットをひらひらさせた、そのとき。


「……? ゆーとさま、このえ……」


 セラフィの目が、ぴくりと動いた。


「すいーつ……? すいーつ、ですか……?」


「え、あ、はい。地元菓子職人による限定メニューが会場内で販売され――」


「ゆーとさまっ!!」


 次の瞬間、俺の袖がぎゅっと引っ張られる。


「すいーつですっ! あまいのですっ!! いきたいですっ!!」


 きらきらと光る目。

 ぷるぷる震える指先。

 スイーツへの執念が、全身から滲み出ている。

 先ほどの通り魔への恐怖はどこへやら。


「……参加はしないけど、観戦はできる?」


「うぐぅ……どうあがいても出場しないおつもりですね。……はぁ、しょうがないです。観覧チケットもこちらで販売中ですよ……」


「じゃあ、それだけお願いしようかな」


 セラフィがはしゃぐ隣で、ミリアが小さく笑った。


「ふふ……セラフィさん、本当にうれしそうですね」


「まったくだよ……」


 俺は軽くため息をつきながらも、どこかほっとしていた。

 さっきの神殿で見せた曇った表情は、もうどこにもなかった。


「じゃ、明日は……スイーツ&観戦ツアー、か」


「るんるんるん! セラフィ、ちゃんとはやおきしますっ!」


 彼女の勢いに引っ張られるように、俺たちは観戦チケットを受け取った。

 そうして明日の予定を考えながら、宿を探して神殿都市を歩き始めるのだった。


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