9話 ゲート
とりあえず、離れたから、もう演技は良いよね。
「ふぅ……あれで大丈夫だったかな」
「大丈夫じゃない? 信じていたみたいだから」
信じていたみたいだけど、あれでもう、あそこに近づけないよ。戻ってきたら、それこそ怪しまれるだろうから。
魔物が大量に現れている原因を探りたいのに、どうすれば良いんだろう。他に、どこか原因を知れそうな場所でもあるのかな。
見渡す限り、普通の村にしか見えないけど。人がいないのは、普通じゃないけど。
「魔物の事、何も分からなかった」
「そうでもないと思うよ。犯人が分かったなら、魔物をどうやってここに大量に出現させているか。これは、人為的なものであると知れたんだから、考えるのはそれだけ。十分な成果だよ」
そうなのかな。ヴェレージェは、公園の方を見ている。あそこにまだ何か調べる事ができなかった秘密があるんじゃないのかな。
それが、解決に繋がるなら、詰みな気がする。二度と訪れられない場所に重要な道具が置かれてるのを、知らずに通り過ぎたくらいに。
冒険ものに書いてあったけど、あれは中々の罪状況。実際にこんな事は起きないでしょと思っていたけど、まさか、本当になるなんて。
この先どうしよう。どうにかして、魔物が大量に現れないようにしないといけないんだけど。
「……ヴェレージェ、魔物が大量に現れている原因を探さないと」
「うん。恋人ごっこはやめて、早く探さないとだね」
恋人ごっこ、良い思いだけはできたかも知れない。
「どの辺が怪しいかな? やっぱり、人がそんなにいないような場所とか? 」
人が行かないような場所の方が、こういう仕掛けってある気がするけど、公園って人多そうな場所に監視の変なものがあったんだよね。
もしかしたら、人が良く行くような場所かもしれないとも思ったけど、魔物が出るようなものを、そんな場所に仕掛けていたら、何かする前に気づかれて誰かが仕掛けを解除しそう。
「……この辺で気づかれそうにない場所は……あそことかは? シェミーリム、心当たりがあるから行っても良いかな? 」
「うん」
ヴェレージェは王子様だからなのかな。この辺の事を詳しいのは。王子様なら、国の地図とか持ってそう。だから、自国には詳しいのかなって。
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花が光ってる。こんな花が存在するなんて。それに、宝石のような蝶々までいる。
綺麗な場所だけど、綺麗だからなのかな。別世界にいるみたい。
「あった。これじゃないかな。魔物の原因」
普通の穴にしか見えない。これのどこから魔物が出ているんだろう。この穴がゲートで、ここから魔物が入って、空に出ているならありえるかもしれないけど、でも、魔物がいない。
魔物がいない時点で、これがゲートじゃないという事で良いと思う。
「これ、魔法で特定の魔物を召喚してる。それで、あの村の空に魔物を転移させてる。どうしてそんな手間のかかる事をやるのかは分からないけど、間違い無いと思うよ」
「魔物召喚って、普通にやったらできないんじゃ無いの? 」
「うん。できないよ。でも、ここは特別な場所だから、それもできるんだと思う。とりあえず、これを破壊すれば良いだけだからやっておくよ」
「うん。ありがとう」
魔法の破壊ってそんな簡単にできるものだったかな。実際に見た事はないけど、何度か、話だけは聞いている。
魔法の破壊はかなり高等な技術が必要だとか、そんなものできるわけがないとか。
そういえば、こんな話もあった。
魔法の改竄や破壊を得意とする姫がいたらしいけど、そんな姫がいるわけがない。魔法の破壊ができると有名になりたかっただけではないかって。
わたしは、その姫が嘘をついていたなんて思えないけど。会った事もない昔の人に対して嘘か本当かなんて、確かめようもないかな。
その姫がいたのは、数千年前の話だから。
「できたよ。これでもう魔物が出てくる事はないと思う。ここから、だけど」
「魔法の破壊って、難しいんじゃないの? 」
「コツを知れば簡単だよ。昔のお姫様も言っていたらしいけど。魔法の特徴を知り、綻びさえ見つけてしまえば、好きなように魔法を改竄できるって」
そんな事まで言っていたんだ。ていうか、それだけで、今ではできるわけないとか言われている事を簡単にやるって、どんな姫だったんだろう。
これは、空想と疑われても仕方がないかも知れない。
「すごいんだね。その姫って」
「……うん。そうだろうね。きっとすごい子だったんだよ。そんなお姫様がどうして姿を消したんだろう。歴史書を見ても、突然姿を消したとしか書いていない」
「姿を消した? 」
「うん。一説には、この世界を見限ったとかあるけど、そうじゃないと思う。もっと、別の理由があるはずだけど、それが何も出てこない。どうして、消える必要があったかも。昔の事すぎて、情報がないだけかもしれないけど、故意的に隠されている可能性も否定できない。その姫は、世界にとって大事な子だったらしいから」
歴史とか興味があるのかな。こんなに詳しくて、こんなに自分で考えているなんて。
わたしは、歴史とかそんなに興味がないし、その姫が姿を消した原因も、気になりはするけど、突き止めたいとは思わない。
そもそも、昔の事なんだから、情報なんてあるとは思えない。でも、ヴェレージェは違うから、見つかる事を願いたい。
こういうのも、世界は聞いてくれるかな。世界にとって大事な子だったなら、世界は何か知っているかもしれない。
「ヴェレージェ、わたし、祈りしておきたい」
「うん。待ってるよ」
ヴェレージェとは少し離れた場所で、わたしは世界に祈りを捧げた。
**********
祈りのついでに、世界なら知ってる事があるはずと思って、聞いてみたけど、何も教えてもらえなかった。
知らないんじゃなくて、教えたくないって感じ。なんでかは分からないけど。
大事だからこそ、わたしに話す事はしたくないのかもしれない。それとか、世界もその姫が姿を消した事が、まだ信じられていないとか。
そんな感じがした。
「終わった? 」
「うん」
「どうしたの? 」
「……世界にとって大事な子って言っていたから、世界なら姫の事を何か知っているかもしれないって思って聞いてみたけど、答えてもらえなかった。少しでも、ヴェレージェに協力したかったのに」
世界征服の計画を止めるって決めてから、ヴェレージェがいないと、わたしは何もできなかった。今回も、場所なんて、ヴェレージェがいないとか分からなかった。それに、情報を得る事もできなかった。
だから、少しでも、ヴェレージェの力になりたいって思ったのに、何も知る事ができなかったのは、残念というか……
「……世界が答えるわけないよ。そのお姫様は大事な子だったからこそ、世界は真実を誰にも教えない」
「どういう事? 」
「……さぁ? 僕が知ってるのはこれだけだから。それより、そろそろ夕方だから帰った方が良いんじゃない? 君が帰らないと、世界は君がいないって心配するよ」
心配するのかな。祈りを捧げているから、無事って事は伝わっているのに。
でも、もうやる事もなさそうだから、帰って休んで、明日に備えた方が良いかもしれない。
「うん。えっと、前みたいにこの指輪に……」
昨日と同じ方法で帰る。本当にこれは便利。
**********
かつて世界から愛されていて突然姿を消したお姫様。
シェミーリムなら何か知ってるかもしれないと思ったけど、何も聞かされてない。
僕は世界と話す事なんてできないから、お姫様の事について、知る事は困難だろう。知っているのは、もう、世界だけだろうから。
「……とりあえず様子見か」
直接聞いて知るのはできなかったとしても、この世界に何か痕跡を残しているかもしれない。もしかしたら、この異変を解決している間に、その痕跡を見つけられるかも。
それを期待して、進むしかなさそうだ。