8話 演技
街とか村の中で、突然現れたらびっくりするから。そんな理由で、目的地の手前から、歩いて行く事になった。
歩くのは嫌いじゃないから良いけど、これでも、人が偶然見ていれば同じだと思うのはわたしだけなのかな。
今回は見られていなかったけど。
次の場所は、どんな異変が起きているんだろう。わたし達に解決できる異変なら良いんだけど。
「誰もいない」
日中なのに、みんなが家の中にいるなんてあり得るのかな。何か事情があるのかもしれない。異変に関係するような。
「シェミーリム! 」
「きゃ⁉︎ 」
巨大な鳥型の魔物が、飛んできた。
ヴェレージェが引き寄せてくれたから、直撃しなかったけど。
「これ……全部魔物だ」
鳥が全部、魔物って……ここから見ただけでも、数百匹はいるんだけど、そんな大量に魔物が出現する事なんてあるのかな。
もしかして、これが異変なんじゃ。
「気をつけて。この魔物、外にいる人を無差別に狙うみたい」
「う、うん」
祈って、魔物を浄化しないとって思うんだけど、目の前の出来事に、祈る事を忘れていた。
突撃してくる鳥型の魔物が、次々と落とされてる。短剣一つで、どうやってるんだろう。
「祈らないと」
「離れないで。祈るなら、このまま祈って。祈っている間が必ず安全とは限らないから」
「う、うん」
祈りを捧げる。浄化を願う。これだけの数の魔物に効果があるのか分からない。でも、前だって、それでもできているから大丈夫。
**********
祈りを捧げると、魔物は浄化された。これで、ここの異変も解決で良いのかな。どうしてこうなったか聞く必要はあるけど。
「生まれ、た? ……魔物をどうにかすれば良いってわけじゃないみたい」
「どうすれば良いの? 魔物が生み出される原因を探るにも、魔物がいるなら危険でできないよ」
この数の魔物が浄化してもずっと出続けるなら、動き回れない。
「……あそこから生まれていた。多分、あそこに何かあるんだと思う」
あそこって、空の上なんだけど。空の上に行く方法なんてあるのかな。
魔法ならいけるのかもしれないけど、もし、落ちたら……
「もしかしたら、どこかから、転移しているのかもしれない。地上を探して見るのはどうかな? 」
「うん。そうしてみる。でも……」
「魔物なら、バレなければ良いんじゃないかな。魔法で、姿を隠せば、攻撃されないと思うよ」
ヴェレージェが魔法をかけてくれたけど、何か変わったとは思えない。
「これで良いの? 」
「うん。これで魔物には見つからない」
魔物に見つからないから、突撃もされずに探せる。といっても、どこを探せば良いのかっていうのもあったかも。
「……こっちの公園の方を探してみない? こんなに何もない公園なら、何かあるかも」
「うん」
**********
公園って、始めてきた。広くて、子供達が走って楽しく遊べそうな場所。子供はみんなこういう場所で遊んでいるのかな。
早く元気に遊べるような場所に戻してあげたい。
どこかに何かないか探さないと。
「……正解。こっちきて」
「何かある? 何も見えないよ」
「見た目は何もないよ。でも、ここをよぉく見て」
何かあるのかな。
……公園じゃないものが見える。これは、貴族の邸宅かな。何か話しているみたいだけど。
話している内容は聞こえない。
「……ねぇ、見た? こんなところに、綺麗な石が落ちてる。宝石かな? って、こんなところに宝石なんてあるわけないか」
「えっ? 」
どうしたんだろう。急に、無邪気に遊んでいる子供みたいに。
「この砂で絵を描くの楽しいよ。君のやってみたら? 」
合わせて。遊んでる子供になって?
どうしてなんだろう。きっと、何か意味があるんだと思うけど。
『旦那様、誰かが見ています』
声が聞こえた。かなり近いから。
もしかしなくても、監視しているんだ。だから、わたし達が、これを見ていると思わせないように、楽しく遊んでいると偽りたいのかも。
「うん。描いてみる。こうして遊ぶのも久しぶりだね。なんだか、子供に戻ったみたい」
こんなので良いのかな。
『こんな年齢で砂遊びなど怪しい。調べろ』
怪しまれてる。どうすれば
「……うん。子供っぽくすれば、言えるかなって思ったんだけど……恥ずかしいのには、変わりないみたい。シェミー、僕、君の事が好きなんだ。だから、その、僕の、恋人になって欲しい! 」
「えっ⁉︎ えっ⁉︎ えっ、えっと、あの……どうして、わたしなの? ヴェレなら、他にも素敵な人がいるよ。ヴェレは、かっこよくて、優しいから」
「他なんて考えられない。僕は、シェミーを愛してるんだ。始めて会った日、一目惚れしたんだ。それから、一緒にいて、楽しくて……シェミー以外は、考えられない」
これは演技なんだって分かってる。分かってるけど、告白なんて初めてなんだから、緊張する。
「えっと……」
見ている旦那様って人はどうしているんだろう。
『なんだ。ただの告白現場か』
『……はいですよ。はいか、よろしくお願いします』
『そういえば、好きだったな。こういう告白現場が』
『そうなんです。こんな甘酸っぱいものを、この目で観れるとは。しかも、美男美女の……旦那様、これをつまみに、飲むのはいかがでしょう? いくら、彼の方の命令だとしても、息抜きは必要です』
『そうだな。一杯もらおう』
命令?
あの方って誰だろう。それが分かれば良かったんだけど。でも、誰かが命令で監視させているって事だけでも十分な成果かな。
「……シェミー」
あっ、告白の答えを言わないと。
「えっと、わ、わたしも、好き。その、よ、よろしくお願いします」
こんな感じで良いのかな。
「うん。よろしく。このまま家までデートしようよ」
「うん」
これで自然にここから離れれば、良いのかな。
「どこに行きたい? 僕は、このまま家でゆっくりととかが良いけど。シェミーの好きな事で良いよ。いつも僕に合わせてくれるから」
「えっと、わたしは、お散歩とかが良いかな。部屋の中にいるより、外の方が好きだから。ヴェレーがいやなら、家の中でゆっくり過ごすのでも良いけど」
「嫌じゃないよ。君が好きな事に嫌なんてない。むしろ、君の事知れるから、嬉しいんだ。もっと、君の好きな事を教えて欲しい」
本当の恋人みたい。恋人なんて作った事ないから、妄想の中でしか知らないけど。
監視していた人も騙せたから、これは、恋人と言って良いのかな。
演技だとしても、こんなふうに言われるのは嬉しい。
「じゃあ、いつもは行かないような場所に行こうよ。そういうのはきらい? 」
「ううん。きらいじゃないよ。新しいものを見れるのは好き。自分一人の時は、そんな事しないけど」
一人だと、帰れなくなったらとか考えて、そんなに冒険しなかった。宛もなく歩く事なんて、一度もなかったかもしれない。
今は、演技で本当に歩かないっていうのと、ヴェレージェがいるから。
「知らない場所は、怖くないの? 僕が無理に連れてきているから、少し心配で。君は、この村の出身じゃないから」
「……怖い、はないと思う。それに、もしあったとしても、ヴェレーと一緒だから、どこに行っても怖くなんてないよ。わたしに何かあれば、ヴェレーが守ってくれるでしょ? 」
わたしの方からも、少しはそれっぽい事を言っておかないと。後から、こっちの女は、不自然だった。とか言われないように。
「うん。守るよ。どこにいたって、君の事は僕が守るから。でも、側にいるのが一番安心するから、いつかは、ずっと側にいられるようになりたいかな」
「えっ⁉︎ そ、それは」
「僕は、恋人を軽くみてないよ。ちゃんと、結婚前提で考えてるから。シェミーは嫌だったかな? 」
これって、演技なんだよね。そこまでする必要あるのかな。分からないから、合わせはするけど。
「い、嫌じゃないよ。わ、わたしも、そっちの方が嬉しい。本気で好きって感じがして」
「うん。本気だよ。絶対に君を僕の側にいさせる」
演技……じゃない。少なくとも、この言葉だけは。
どうして、そう思うんだろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか。早くしないと夜になるよ」
「うん」
なんだったんだろう。さっきのあの言葉は。わたしを自分のものにするじゃなくて、側にいさせるって。