6話 魔物の出現
定食。美味しかった。
少し早いお昼になった。
定食食べて、隣町へ向かった。それで、夕方くらいになって、隣町に着いたけど、作物が育ってない。これじゃあ、みんな何も食べれてないかもしれない。
作物だけじゃない、お花も何も育ってない。全部枯れている。
食べれないだけじゃなくて、薬とかも、作る事ができずに、飲めていないのかもしれない。
早くなんとかしないと。薬が必要な人はいるはずだから。
「……これはひどい。とりあえず、話を聞いて原因を探ろう」
「うん。そうだね。クゥロレボの恋人も探さないと……あっ」
噂をすれば。
ヴェレージェが言っていた、クゥロレボの恋人の特徴に当てはまっている女の人発見。年齢も、クゥロレボと同じくらい。二十代前半。
多分、この人が、クゥロレボの恋人だけど、どうやって声を掛ければ、警戒されずに話す事ができるんだろう。
「あの、もしかして、テリンナ? 」
ヴェレージェが躊躇いなく話に行った。すごい。これが、長年王族としていろんな人と関わってきた人。
「えっ、あ、は、はい! 」
「えっと、覚えてないかな? 会ったの、三年くらい前だから」
特徴知ってたから、気づくべきだったのかな。そもそも、知り合いだったオチ。
「えっ⁉︎ もしかして……どうしてこんなところに来たんですか! 騒ぎになる前にこっちへ来てください! 」
あっ、どっか行っちゃう。クゥロレボの恋人の事はヴェレージェに任せて、わたしは、世界に祈りでも捧げておこうかな。
どこか良い場所は……木の側が良いかな。道の真ん中とか邪魔になりそうだから。
原因が分かれば、祈りで解決できるかもしれないけど、原因が分からないと、何もできない。
「お姉ちゃん、商人さん? ボク、お金これだけしか持ってないけど、果物買える? 」
まだ五歳くらいの男の子。ボロボロの服を着ている。
「ぼく、お母さんかお父さんは? 」
「お父さんもお母さんも流行病にかかって、ボク寝ている。だから、果物をあげれば元気になってくれると思って」
病の蔓延まであるなんて。でも、それならわたしが力になれるかもしれない。
「えっと、お家行っても良いかな? もしかしたら、お姉ちゃんが治せるかもしれないから」
「ほんとお! うん! こっち」
わたしは、男の子について行った。お家まで、男の子が走るから、走っていかないといけなくて、少しだけ疲れちゃった。
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流行病で寝ている男の子の両親を見ても、どんな病かなんて分からない。でも、病って分かっているなら、大丈夫。
わたしは、世界に祈りを捧げた。世界は、その祈りを聞き届けてくれる。わたしに、この病を治す方法を教えてくれる。はずだったんだけど、世界が祈りを聞いて、治してくれた。
「これで大丈夫だよ。お姉ちゃんは、待っている人がいるから、もう行くね」
「うん。ありがとう。お姉ちゃん」
ヴェレージェが戻ってきた時に、わたしがいないと心配するかもしれない。それに、さっきの場所で祈りを捧げて、お礼を言いたい。
わたしは、男の子の家を出て、木の場所へ戻った。
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祈りを捧げ終わっても、ヴェレージェが戻ってこない。何かあったのかな。
そういえば、ここの土、乾いてる。雨が降ってないのかな。
雨が降れば、作物も育ってくれるかな。もう一度祈ろう。
世界に、雨を降らせるように、祈りを捧げよう。
「金になりそうだな」
「誰も見てない」
「薬は持ってきたか? 」
「はい。これです」
この場所に雨を降らせてくださいって、強く願う。そうすると、世界が願いを聞いてくれる。
ぽつん、ぽつんと、水滴が空から落ちてくる。世界が聞いてくれた。
「人の連れに何しようとしてるのかな? 」
「げっ⁉︎ 」
「一人くらいどうにかなる。騒ぐな」
もう少し、雨を降らせてあげたい。いっぱい降らせすぎるのも良くないけど、土が湿るくらいには、降らせた方が良いと思う。
「グハッ」
「グゲッ」
このくらいで良いかな。雨で、土が湿っている。水溜まりも、少しだけできている。
でも、原因をどうにかしないと、同じ事の繰り返しになっちゃう。これは気休めにしかならないから。
「ふぅ……」
でも、とりあえず、祈るので疲れたから休憩。魔力を使うからなのかな。祈るのは疲れるんだ。
って、なんか男の人が二人倒れてる。何かあったのかな。大丈夫なのかな。
「……縄は……あった」
「倒れてる人を縛るなんてひどいよ」
「この二人、君を攫って売ろうとしていたんだけど……祈りに集中していて何も気づいてなかった? 」
気づいてなかった。祈りに集中していると、周りの声とか聞けなくなる時があるから。今回のように、世界に頼む祈りは特に。
やっぱり、こんなところで祈るべきじゃないのかな。もっと、安全な場所で祈る方が良いのかも。
あっ、でも、祈ってる時は、世界に守られているから、大丈夫なんだった。
というか、ヴェレージェが戻ってきていて、人攫いって知っているって事は、もしかしなくても、ヴェレージェが助けてくれたのかな。
「ありがとう」
「目の前で攫われそうになっていたら、助けるのは当然だよ」
「見て見ぬ振りをする人だっていると思うよ。自分の安全のためにも、それが良いと思う。だから、助けてくれて嬉しいよ。自分でどうにかできるとかは関係なく」
「やっぱり、自分でどうにかできるんだ。だからって、助けない理由にはならないけど」
優しすぎるよ。そんなんじゃ、いつか苦労しそう。
少し休憩できたから、次は、作物を育てないと。種がなくてもできるのかな。
やってみないと分からないから、やってみよう。
「また祈るの? 」
「うん。作物が育たないと」
「その前に、原因を探った方が良いと思うけど? 原因をなくせば、作物も育つようになる。それに、国の支援も可能だから、食料とかは。だから、原因さえどうにかすれば、どうにかなるよ」
国の支援とか考えてなかった。そういえば、この国は、支援が厚いから、王族の支持がかなり高いって聞いた事がある。
「原因……どうやって調べよう」
「さっき話を聞いてきたけど、原因は、魔物らしいよ。魔物が現れてから、突然、病が蔓延して、作物も枯れたらしい。一人で行こうと思っていたけど、君が心配になって」
魔物は、人の感情が生み出す。魔物がいなくなれば、作物とかは枯れる心配がなくなるかもしれないけど、人の感情が変わるわけじゃない。
どうして、魔物を生み出す感情が溢れているのか。それをどうにかしないと、解決したとは言えないと思う。
でも、とりあえず、魔物はどうにかしないと。
「わたしも行く。少しくらいは、役に立てると思うから」
「少しかな? だいぶ役に立つと思うけど。君って、自分がどれだけすごいのか理解していなさそう」
祈りは時間が少しかかるから、かなり役に立つなんて言えないよ。
「魔物がいるのは、この先。場所は教えてもらっているから、ついてきて。それと、魔物が生まれる前の事も聞いておいたよ」
「何が原因だったの? 」
それさえ分かれば、解決できるかもしれない。そんな期待を込めて聞いた。
「洗脳……なのかな。突然、高位貴族を名乗る人がここへきて、この町にいる人を全員集めたらしい。そこで、この国に怨みを持つようにとか、色々と言っていたって。初めは、みんな、何言ってるんだって感じで聞いていたけど、次第に、そうしないとと思い始めたらしい」
「今は、そんな感じはしないけど」
「うん。その高位貴族を名乗る人が帰ってから、正常に戻ったらしいよ。でも、魔物は出現した」
なら、その魔物をどうにかすれば、この町でできる事はもうなさそう。その高位貴族って人の事を調べる必要はあるけど、それは、ここじゃなくて、高位貴族って人がいる場所の方が良いと思うから。
わたしは、ヴェレージェと一緒に、魔物のいる場所へ向かった。
魔物討伐はやった事ないけど、ヴェレージェがいるから、きっと大丈夫。