4話 誤解
誰かと夕食を食べるなんて初めてかもしれない。
「どうかな? 不味くはないと思うんだけど」
「美味しい。わたし、一人暮らしで、料理するんだけど、こんなに上手に作れない。何かコツとかあるの? 」
「うーん、どうなんだろう。レシピ通りに作ってるだけだから、コツとかはちょっと分からないかな。ごめん、力になれなくて」
やっぱり、向き不向きの問題なのかな。わたしが作ると、味はまあまあなんだけど、見た目がとんでもない事になるんだよね。
これは、見た目も味も良い。
「そういえば、どうしてわたしが疲れてるって分かったの? そのくらいは聞いても良いでしょ? 」
「なんとなく。そうじゃないかなって思ったから。違ったかな? 」
「……ううん。違わない。あっているよ。だから気になるんだけど」
「僕、昔から得意なんだ。なんなんだろう。疲れている人特有の何かを感じ取れるのかな。自分でも良く分かってなくて。答えになっていないよね」
疲れてる感じってどんな感じなんだろう。でも、顔に出ていただけかもしれないから、そこは気にする必要ないのかな。
「普通に疲れているって出ていただけかも」
「……僕の言ってる疲れてると、君の言ってる疲れてるは違うかも。僕は、魔法の使いすぎで、魔力が減っているから言ってるんだ。魔力の消費は、気付かないだろうけど、身体に負荷がかかるから。体力的にというより、精神的面で。しかも、本人も周りもそれに気付かない」
どうしよう。わたし、そこまで教養あるわけじゃないから、理解できない。
世界から勉強を教えてもらう事はないから、ずっと独学で少しずつ勉強していただけだと、魔力に関する事とか全然できないの。
魔力に関する事は、専門分野に行かないと、詳しく習わないらしいから。
ヴェレージェは、王族って言っていたから、教養があるんだろうけど、わたしじゃなくても、普通に知らない人は多いと思う。
「えっと、理解できてる? 」
「できてない」
「……体内に蓄積されているの魔力を消費して、魔法を使う。人は、常に魔力を消費して、消費した分回復している。一定量だから、魔法を使って消費した魔力を回復させるには時間がかかる。ここまでは? 」
それは、聞いた事ない。この時点で知らない内容。でも、理解できなくはない。
「理解できた」
「魔力の消費は、精神的疲労と似ているんだ。それだけなら良いけど、その疲労は、気付きにくくて、休まずに何度も魔法を使い続けていると、精神的疲労で熱を出す事例が、昔から後を経たない」
「うん。それで、ヴェレージェが感じるっていうのは、その……」
「魔力の消費に関する疲労。魔力を使ったのを感じやすいって事なんじゃないのかな」
説明のおかげで理解できた。
魔法を使う時は、今度から気をつけよう。あまり使いすぎないように。
「ご馳走様。美味しかった」
美味しくて、ぱくぱく食べれたから、気付けば完食していた。
「ありがとう。久しぶりに誰かと一緒に食べれて、嬉しかった」
「……そう。気になるけど、長そうだから明日にするよ。お風呂って借りても良い? 自分でやった事とは言っても、雨に濡れてベタベタする」
「うん。僕は後で入るから、お先に」
「ありがと」
わたしは、ヴィレージェにお風呂の案内をしてもらって、お風呂に入った。
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翌朝。疲れも取れて、スッキリと良い目覚め。
「おはよう。朝食できてるよ」
「ありがとう」
朝食まで用意してくれるなんて。やっぱり、優しい人なのかな。
「昨日も少し話したけど、僕は、この国もだけど、守りたいんだ。このまま放っておけば、この国が危ない。僕の友人の国も。世界を征服しようとしている組織に」
「うん」
「昨日は、友人と、近くの国と自分達の国の状況を報告しあっていて、友人の国の状況が良くないって言われた」
「うん。昨日と同じ内容。嘘じゃないみたいだね」
咄嗟の嘘だったら、話す内容が変わる事とかあると思う。それがないから、咄嗟の嘘ってわけではないみたい。
「久しぶりに誰かと一緒にっていうのは、聞いても良い? 」
「うん。こんな状況だからね。危ないから王宮には帰らない方が良いって言われて、幸い、僕は国民に顔を知られていない。だから、一般人と紛れて暮らす事になったんだ。それが数年前。それからは、ずっと一人」
それは、寂しいと思う。
わたしは初めから一人だったから、一人以外は知らないから、そんなに寂しいと思わないけど。一人以外を知っていれば、寂さは増えると思う。
「……疑ってごめんなさい。わたしは、シェミーリム。よろしく」
「うん。よろしく……えっ? シェミーリムって、あの」
また鍵の姫とか言い出すのかな。あれ、なんかきらい。
「この国をずっと守ってくれてありがとう。君がいてくれるから、祈ってくれるから、この国は平和なんだって、ずっと聞かされてきた」
守っていたっていう自覚はないけど、祈りはしていた。これで感謝されるなんて、初めてで嬉しい。
そういえば、ご飯とかは一人だったけど、わたし、この国の王族とは少しだけ関わりがあった。幼い日の事だから、誰とかは分からないけど。
今まで忘れていたけど。
「……覚えてない、かな? 僕も、名前を聞くまでは分からなかったから」
「……ごめんなさい」
全然覚えてない。もしかしなくても、この反応は、幼い頃は仲良くしていたのかな。だとしたら、申し訳ないかも。
仲良しの人に忘れられるなんて、悲しいと思うから。
「ううん。覚えてなくても良いよ」
「いつかは思い出すよ。だから、少し待ってて。それと、その、世界征服を計画している組織の事、わたしも協力したい。わたしだって、無関係じゃないから」
わたしだってというか、無関係な人はいないと思う。無関心はいても。
「ありがとう。君が協力してくれるのは、心強い」
「それは良かったけど、何か計画とかはあるの? どうやって阻止するのかって」
相手の計画を阻止するための計画がある方が良いと思うけど、わたしは計画なんてないから聞いてみる。
「まずは情報収集かなって。ついでに、困っている事があれば、助けてあげながら。今までも何度か情報収集に出ていたけど、中々良い情報がなくて」
「わたしも手伝うよ。祈りの時間を貰いたいけど」
祈りの場所は、非常事態にはどこでも良いから。それに、数日に一度で良いの。
やらないはだめだけど。
「良いよ。祈りの時間は教えて? その時は移動しないようにするから」
「うん。ありがとう」
「まずは、この国で情報収集しようかな。君は、この国の事を知ってる? 僕が案内するよ」
この国にずっといるけど、この国の事は知らないから、案内してもらいたい。それに、この国を良く知るヴェレージェなら、ちょっとした変化にも気づくかもしれないから。
その変化が、世界征服の計画の何かに繋がっているかもしれないから。
「うん。お願いして良いかな」
「任せて。情報収集のために、準備はしておいたから。シェミーリムの服とか日用品だけは用意できてないけど。それは、買えば良いから」
すごい準備が良いんだね。お金あったかな。
「あっ、お金の心配はしないで。僕が買うから。いつも、国の平和を守ってくれているから、このくらいはさせて欲しい」
「う、うん。ありがとう」
「うん。それじゃあ、出かける前に、シェミーリムは、あの組織に狙われる可能性があるから、護身用に」
もうすでに狙われているけど、黙っていた方が良いかな。なんだろう。言ったらすごい心配されそう。
「このネックレスをつけて。そうすれば、もし捕まったとしても、居場所が分かるから。そっちからも、分かるんだけど、やり方を教えるのが苦手だから、ごめん」
追跡系の魔法具ネックレス。迷子にならないようにって作られたらしい便利魔法具だけど、実際に目にするのは初めて。普通におしゃれだから、つけていて違和感がない。
「それじゃあ、行こう」
「うん」
世界征服を阻止するための情報収集だけど、せっかくいろんな場所を見る事ができる機会。少しだけ楽しむのは、良いよね?