2話 脱出の祈り
「ハッハッハハハー! これは運が良い! まさか、鍵の姫を手に入れられるとは! 」
鍵の姫?
分からないけど、これは、まずそうな予感。
「最後の国と一緒に捕まえようとしていたが、こんなところで捕まえられるとは。ついてる。運命が、味方でもしてるんだろう! 我々にこの世界を征服するチャンスをくれるとでも言っているようだ! 」
「そうですね。これは、もう計画を完遂したも同然。やはり、我々の計画は正しかったのです。この娘が、それを証明してくれました」
証明なんてしてないんだけど。なんでこんなに、勝った気でいられるんだろう。わたしが、計画を阻止するなんて考えてないのかな。
「そうだ。だが、まだ油断は大敵。いくら計画は成功間違いなしとまできているとはいえ、少しの油断が命取りとなる。良いか。我々は、この先も今まで通り、一度も失敗する事は許されない。一度も失敗が、計画の破綻となる。予想外な最高の出来事があった今だからこそ、それを今一度心に留めておくんだ」
「はい。必ず成功させるためにも、心得ております」
すごい、一体感。別の事に活かせなかったのかな。
って、そんな事は良いから、どうにかして逃げないと。
「変な真似はするもんじゃない。余計な事さえしなければ、丁重に扱う。おい、鍵の姫を部屋に案内しろ」
酷い事はしないみたい。それにしても、鍵の姫って本当になんなんだろう。この人達の計画に重要な役割を持っているのだろうって事くらいは分かるけど。
もしかして、世界に守られている事を関係があるのかな。
「ついてこい」
ここは、大人しく従っておこう。人がいっぱいいると逃げ出すのも逃げ出せないから。
部屋に連れて行かれれば、人は少ないと思う。そこで逃げ出す方法を考えて逃げ出せば良いんじゃないかな。
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広い。居心地良さそう。ベッドもソファもふかふか。これは、高待遇と言っても良いと思う。
でも、これでここにいて良いって思っちゃだめ。どうにかして、ここから逃げないと。
「鍵の姫ってなんなの? わたしをどうするつもり? 」
「手荒な事は、しません。姫が大人しくしてくださるのでしたら。鍵の姫に関しては、いくら本人であろうと、話す事はできません。我々の計画に関わる話なので」
計画について詳しく聞く事はできそうにない。計画に関係する話は全部話さないように言われているみたい。
これは、もっと情報を得るのは難しそう。猫の状態なら、話聞けたのに。
でも、今更猫になったとしても、話聞く事はできそうにないよね。一度バレれば、警戒されるから。
「……お風呂入りたい。わたし、一日二回お風呂に入らないとなの」
お風呂なら、誰も覗けない。だって、わたしは
「それと、わたしがお風呂で身を清めている間は、誰もわたしの身体を見ちゃだめだから」
世界に祈りを捧げるわたしの身体は、世界のためにある。だからって、恋してはだめとかじゃないんだけど。でも、入浴の時に、誰かに身体を見られるのはだめ。
それが決まり。
その決まりを利用すれば、確実に逃げられる時間を確保できるかもしれない。
お風呂二回は入る必要ないんだけど、その方が確実性があるかなって。
「部屋にあります」
外にあれば良かったんだけど、そんな都合良くはいかないみたい。でも、部屋だったとしても、誰にも見られる心配がないから。
「着替えはクローゼットに入っているものをご自由にお使いください。食事は、三食決まった時間に運ばれます。マッサージ等もお申し付けくださればやります」
なんだろう。高級ホテル並みの、至れり尽くせりな感じがする。
でも、そんなので、ここにいるなんてならない。
絶対止めるために逃げないとだけど、ちょっとくらい、ベッドくらいなら堪能しても許されるんじゃないかな。
そ、それに、ベッドで寝ていると思わせれば、油断を誘えるの。油断するなとか言っているけど、失敗するのが人だから。
ついつい油断しちゃう時ってあると思う。寝ているから安全みたいに。それを期待するって名目で、ベッドに寝転ぶだけだから。
「わたし、寝るから。起こさないで」
「食事の時間になりましたら、起こさせていただきます」
「起こさないでって」
「食事は大事です」
「……分かったよ。その時間だけ起こして良い」
「ご希望に添えず申し訳ございません。では、これで失礼させていただきます。何か用があればそちらのベルを鳴らしてください」
なんだか、本当のお姫様にでもなったかのような扱い。流石に高級ホテルにベルはないと思うから、お姫様に昇格。
ベッドを堪能してみたいけど、その前に、どうやって逃げるか考えるためにも、部屋を探索しないと。
壁の穴とか、鍵のかかってない窓とか。そういうのを見つけられれば、逃げる時に脱出ルートになるから。
まずは、暖炉の中がどうなっているのか確認する。暖炉は使われていないから、中を見る事ができる。
隠し通路って、なんだか、こういう場所にありそうなんだよね。わたしがそう思ってるだけなんだけど。
「……ない」
暖炉はなにもなさそう。ただの暖炉。ちょっと高級そうな。
壁を触っていると、偶然隠し扉があって、隠し通路がっていうのもある気がする。次は壁を触ってみる。
一周ぐるっと回れば、もし隠し扉があったとしたら気づくと思う。
「……」
ぺたぺた
って触ってはいるけど、普通の壁。
普通の壁だけ。隠し扉らしき壁はない。でも、まだこんなところで諦めるわけない。壁がだめなら、窓が空いてないか全部確かめる。
もしかしたら、内側から開けられる窓があるかもしれないから。
窓が小さくても、変化すれば、中に入る事ができる。
だから、小さな窓でも、開けられないか、片っ端から確かめてくる。
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窓もだめだった。お風呂場まで全部調べてきたのに。ついでに壁ももっと細かく調べてみたけどなにもなかった。
あと考えられるのってなんだろう。通気口かな。
「……なさそう」
そもそもないパターン。
こんなに良い待遇だけど、逃げられないようにってちゃんと対策してあるのかもしれない。
「こうなったら」
作戦変更。そもそも、こっそり、どこかの扉や窓から逃げようとするのが間違いだったんだよ。
扉は扉だけど、誰かが来て、扉が開いた時に、走って逃げるっていう事もできるかもしれない。
ベッドで寝てる風に装って、変化して逃げるとか。
小さければ、気づかないと思うから。この作戦でいこうかな。
でも、問題は、そのあと。すぐにバレてまた捕まりそう。
捕まらずに逃げられる方法を考えないと。
「……ふかふか」
ベッドにいれば何か良い案が思い浮かぶかもしれない。自分がベッドを堪能したいからってわけじゃないから。これは、良い作戦を思いつくための方法の一つとして行くだけだから。
そこは勘違いしないようにお願いします。
誰に言ってるんだろう。って、それは良いから、早くベッドに行こう。
「きもちぃ」
ベッドの上は、すぐに寝れそうな寝心地。でも、寝ている暇なんてない。今から逃げないといけないから。
何か良い案がないんだろうか。
例えば、世界に頼んで、簡単に逃げられる状況を作ってもらうとか。
「……それだ」
危ない。つい、大きな声を出すところだった。
まだ部屋の外にいるかもしれない。変な事をしないようにって、外で待機している可能性は十分にある。
だから、あまり不審な言動はしないようにしないと。それに、物音も。
ずっと気をつけておかないと。ここにいる間は。
「……祈りを捧げれば、聞いてもらえるかな」
いつも祈りを捧げれば、聞いてくれる。創造の間とかにいなくても、世界がこの目的のためなら使って良いと思ってくれれば、祈りを聞いて助けてくれるんだ。
それを期待して、ここから逃げられるようにしよう。
「世界様、願いを聞いてください」