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19話 未来を願って


 ヴェレージェが心当たりがあるって事で、みんなで一緒に行っている。洞窟だから、奥の方は光は届かない。

 消滅の風がいる可能性は高いと思う。


「いたっ」


「枝に絡まってるね。髪結ぶ? 」


「うん」


 髪が絡まりやすいみたいで、さっきから何度も絡まってる。


 でも、結ぶにしてもゴムを持っていないから結べない。


「エミシェルス、ここ危ないから気をつけろ」


「うん」


 エミシェルスは髪が長いから、シェージェミアが絡まらないように気を使っているみたい。


「結んであげる」


「ありがとう」


 ヴェレージェ、なんでゴム持っているんだろう。自分に使うようには見えないんだけど。


 もしかして、何か便利道具的な使い方をするためだったんじゃ……


 それなら、わざわざ使ってもらっていると悪い気がしてくる。


「……ヴェレージェがヘアゴム持ってるのは、私がすぐに失くすからなの。癖になってるんじゃない? 」


「そうだな。昔から何度も失くすから俺もエミシェルスのためにゴムを持ってた。この前落としたから今は持ってないけど」


「そうだったんだ……って、なんで分かったの? 」


 わたし、口にだしてなかったのに。


「少しだけだけど、考えてる事分かるから。わたしが悪い人に騙されないようにってもらったの」


 もらったって誰からなんだろう。世界じゃなかったら姫からなのかな。


「ちなみにヴェレージェがしたごころ? よくごころ? だしているのも分かっているから」


「世間知らずな子を見ているとついつい助けたくなるだけだよ」


 あまり外に出なかったから世間知らずなのは認めるけど、なんで世間知らず限定で助けたくなるんだろう。エミシェルスが、今まで外に出た事がなくて、外の事は知らないからなのかな。


「そろそろだと思うの。シェミーリム、お願い」


「うん」


 強い願いってエミシェルスは言っていたけど、いつものように世界に祈れば良いのかな。とりあえずやってみよう。


 いつも通り、世界に祈る。見えるようになるまで、どれだけ時間がかかっても、祈り続ければ、見えてくるかもしれないから。


「星月の祈りは、魔法の事なの。星月だけが使える魔法が存在するって聞いた事がある。私達にそれができるか分からないけど、やってみよ」


「ああ」


 そういえば、ここまで近いなら、消滅の風の影響を受けてもおかしくないと思うんだけど、どうして何も影響を受けないんだろう。


「……それは、ヴェレージェのおかげなの。ヴェレージェが私達が消滅の風の影響を受けないように守ってくれてる」


「そうだったんだ。ありがとう、ヴェレージェ」


「僕にできるのはこれだけだからやってるだけだよ。でも、君にお礼を言われるのは嬉しいね」


「えっ」


「祈り、ちゃんとやらないと消滅の風が見えないよ」


 うん。そうだよね。今は、祈りにだけ集中しないと。


 ヴェレージェの言った事は気になるけど、それを考えないようにして祈りにだけ集中する。


「オリジナル……星月と呼ばれていた姫とその王の呪言でやってみた事あるけど、できなかったの。多分、私達には別の呪言でやらないといけないと思う」


「その呪言はどうやって決めたかは分かるのか? 」


「自分達を表すとか、そんな感じだったと思う」


 こっちができないと、祈りをしていても消滅の風を見る事ができないんだ。


 祈りも大事だけど、こっちの解決をしないと。


「エミシェルスは、おてんば」


「うるさいの。お淑やかで可愛らしいだから」


「雫と輝き」


 なんでそう思ったんだろう。勝手に言葉が出てきた。


「それ良いかも。シェージェミア、これでやってみるよ。シェミーリム、ありがとう。祈りお願いね」


「うん」


 祈りに集中。


「星の雫よ、聖なる雫で見えざる鎧を溶かせ」


「月の輝きよ、全てをその輝きで照らし出せ」


「成功なの」


 良かった。あとはわたしだけ。


 世界に消滅の風の姿を見えるように祈らないと。


「見えた」


「うん。あとはがんばって風を消すの。風も魔力の塊。魔法をいっぱい使って使わせてば消えると思う」


 それなら、もっと祈らないと。今度は、消滅の風を眠らせるために。


「……シェミーリム、何を見てもこのまま祈り続けてて。この中なら、大丈夫なの」


 大丈夫って何がだろう。聞きたいけど、祈りに集中しないとだから聞けない。


「ねぇ、どうしてそんなに悲しんでいるの? だいすきな人がいなくなったから? 消滅の風は、姫と戯れるのがすきだった。そう書いてあった」


「……」


「あの方の代わりになる事なんてできないけど、見つかるまで、私が相手してあげる」


「い……ラ……ナイ……ヤ……シテ」


「……うん。それが望みなんだね。なら、そうするよ。次はきっと、だいすきな人と楽しく過ごせるよ。あの方のようにはできないけど、そうなるように祈ってる」


 自分の力の使い方を知らない子供みたい。姫達は、消滅の風を眠らせようとしていたんじゃなくて、ただ遊んでいただけなのかな。それで満足した消滅の風が眠ったのかもしれない。

 それで、起きたらまた遊んであげる。それを繰り返していただけなのかもしれない。


「どうすれば止ませられる? 」


「ショ……マホウ……イノリ」


「消滅の魔法って……ヴェレージェとシェージェミアが使えたよね? 祈りは引き続きシェミーリムにお願いなの。祈りは一番重要で、シェミーリムにしかできない事だから」


 わたし、祈ってしかいないと思うけど、これってそんなに重要な事なのかな。魔法を使う方が重要な事だと思うんだけど。


 でも、エミシェルスがここまで言ってくれてるんだから、気合を入れて祈らないと……気合を入れて祈るってなんなんだろう。


「どうか、転生をして、その先で幸せに暮らせますように」


 なんだろう。消滅の風の周りを半透明な真っ白い玉がふわふわと浮かんでいる。


「アリ……ガト……ウ」


「うん。また会おうね。いつか、転生した時に」


 消滅の風が消えていく。風だから、表情とか分からないはずなのに、笑っているように感じた。


 気のせいかもしれないけど、どうしても気のせいと思えない。


 わたしが、そう思いたいってだけかもしれないけど。


「これで解決なの……これで、良いんだよね? あの子は、救われたんだよね? 」


「そう願うしかない。何が救いかなんて、本人以外は分からないから」


「うん。そうだね」


 それでも、救われていて欲しい。そう思う事くらいは良いよね?


「次の場所はどこなんだろうね」


「そういえば、ここまで、エミシェルスとシェージェミアは手伝ってくれているけど、良いの? 」


 ヴェレージェは、手伝ってくれるって言っていたけど、二人は成り行きでって感じだったから。特にエミシェルスは、外を知らないまま、外に出したわたし達はについて行っている。


 他に何かしたい事があるかもしれないのに。


「悪い人を止めるまでは付き合う。それに、シェミーリム達と一緒にいる事で、見えてくるかもしれないから」


「何が? 」


「真実。私は、姫が何かを願って、その願いが卵となって生まれた。王の代理は、世界が自らの力を使い生んだ。この先は知らない。だから、知りたいの。全部知って、どうするか決めたい」


 偶然か分からないけど、今までの異変は姫路関連するものが多い。エミシェルスが一緒に来てくれるようになってから、それに気づいた。


 これが偶然じゃないなら、異変の先には姫の秘密が隠されているのかもしれない。


「俺はエミシェルスの保護者兼……保護者だから」


「保護者多いの。シェージェミアは……えっと……なの……と、とにかく、ついていくから。置いてっちゃだめなの」

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