14話 迷子
エミシェルスが、外に出て行っちゃった。場所も言わずに突然。
エミシェルスが姫の手がかりだから、一人になんてさせない方が良いのに。
「ヴェレージェ、エミシェルスがどこに行ったか分かるかな」
「シェージェミアに会いに行ったんじゃない? ちょうど行きたかった場所だから、今から行く? 」
「うん」
もし何かあったらと思うと……早く行かないと。
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のどかな村。ゆっくりしていたいけど、ゆっくりしている暇なんてない。
エミシェルスはどこにいるんだろう。危険な目にあっていないと良いけど。
「……初めての外で迷子になっていなかったら良いけど……」
「迷子……もし、村の外に出てたら」
村の外には、魔物がいるかもしれない。村の中よりも外の方が魔物の出現率が上がるから。
「エミシェルスは、シェージェミアの居場所も知らないから、迷子というか、目的地を知らずに行っているよ」
「それ、かなり危なくない? 」
「うん。だから早く行かないと」
エミシェルス、近くにはいない。そこまで広くない村だから、村の中にいてくれるなら、すぐに見つけられると思うけど。
「ヴェレージェ? 」
「この前ぶりだね。シェージェミア。エミシェルス見てない? 」
シェージェミアって、ヴェレージェの友達の王子様だよね。エミシェルスの好きな人の。
「見てないけど……外に出たのか? 」
「うん。君を探しに行ったと思うんだけど」
「探し行ってくる」
シェージェミアが、走って探しに行った。心配そうにして。
「僕達も行こう」
「うん」
**********
村中を探してもいなかった。
偶然すれ違いになっていたんじゃなかったら、村の外に行っているのかもしれないと、村の外を探す事になった。
「ふぇぇぇん! 」
幸いにも魔物には襲われてなかった。魔物には。
でも、魔物よりもタチが悪そうな相手に囲まれている。
「うるせぇ! 泣くな! 」
「べー」
「チッ、痛い目見させないと、分かんないようだな! 」
「……べー。悪い事は、いけない事なの」
エミシェルス、相手を逆撫でしない方が良いんじゃ……
「んっだと! 」
「きらきらのお星さまが降り注ぐの」
何言ってるんだろう。急にこんな事言っても
「シェミーリム、祈ってあげて。エミシェルスは、お姫様の力外じゃ、一人でこんな事できない」
「えっ、うん」
えっと、きらきらお星様が降り注ぐだよね。急いで世界に祈る。
本当に小さな星が降ってきた。星がエミシェルスを守るように囲っている。
「シェージェミア、これで君の想い人は安全だよ」
「ああ。ありがとう、感謝する」
闇が辺りを覆う。
「シェミーリム、僕の側を離れないで」
闇の中で、悲鳴が聞こえている気がする。エミシェルスは大丈夫なのかな。
闇が消えると、エミシェルスを囲んでいた集団が意識を失って倒れている。
「……泣く」
「……慰めてやれば良いのか? 」
「うん……う、うん……その、慰め……慰めて、欲しい、の」
さっきまでの態度はなんだったんだろう。泣いたふりして堂々としていたのに、シェージェミアを目の前にして、急にしおらしくなった。
「……ごめんな。助けに来るのが遅くなって」
「う……うん……その……助けに、きてくれた、それだけで……い……良いの」
「怖かっただろ? 」
「う……うん」
怖くなさそうと思える堂々ぶりだったけど、やっぱり、怖かったんだね。あまり一人にしないように気をつけないと。
またこんな目に遭うかもしれないから。
「……ちょっと、ヴェレージェと、その、お話があるから」
こっちきた。
ヴェレージェと話ってなんだろう。
「ねぇ、あれで良いかな? あれで可愛くて弱い守ってもらいたい子になっていたかな? 」
「……うん。なってたんじゃない」
あっ、これは、普通に怖いとか嘘だ。かわい子ぶっていただけだったんだ。
「そんな事してなくても、気づいていたんだろうけど」
「何を? ヴェレージェには気づいてもらわなくて良いから」
「エミシェルス、勝手にどっかいっちゃだめだろ。しかも、こんな薄着で」
エミシェルスが硬直した。分かりやすすぎる。
「……可愛くない? 」
「可愛いとか可愛くない関係ない。この辺は寒いんだから、これ着てろ。それと、外が怖いんなら、一人で行動するな」
「う、うん。あ、ありがと」
嬉しそう。とりあえず、エミシェルスが見つかって良かったけど、異変ってなんだろう。
今のところ何も見つからない。
見落としていただけなのかな。
「……そういえば、昨日話していた異変って何か分かる? 」
「多分。水の汚染。何度も浄化しても、すぐに汚染されるんだ。それが異変だと思うんだけど、違うか? 」
「そうだと思う。あっ、そういえば、連絡では話していたけど、実際に会っての紹介はまだだったね。彼女がシェミーリム」
「ああ。俺は、シェージェミアだ。よろしくな、シェミーリム」
「うん。よろしく、シェージェミア」
こうして見ると、エミシェルスが好きになるのが分かるくらい、見るからに良い人そう。
「……水の汚染……聞いた事ある。毒石の話」
「毒石? そういえば、昔そんな話してたな」
「う、うん。その、ど……水に、水の中に入れると、毒……水を汚染する、特殊な石があるの。そ、その石が、汚染の、原因かも……わ、私がそう思ってるだけで違うかもしれないから、水に入って調べる必要まではないと思うけど。その前に、他の場所から調べて、最終的に調べれば良いと思う」
毒石。それの可能性が高そうなんだけど。一番最初に調べるべき事の気がするけど。
エミシェルスは、万が一そうじゃなかった時を考えてでもいるのかな。
「水の中か。探してみるか」
「さ、探すなら、わ、私、一人で探す! こ、この上着、濡れないように返すから! 」
「そんな事させられるわけないだろ」
「……私が、お姫様の手がかりだから? 」
「そうじゃない……ほっとけないからだ」
これ両思いだ。エミシェルスの方は、シェージェミアの好意に気づいてなさそうだけど。シェージェミアは、気づいてそう。
「……で、でも、シェージェミアにだけ、お水の中はだめ! 私も探す! こんな時のために、服の下は水着だから」
それはそれで問題あると思うんだけど。堂々と言っているけど。
「……なんで水着なんだ? 」
「……ヴェレージェ、シェージェミアに、下着持ってないから水着で代用してるって伝えて」
ここにいても聞こえてる。シェージェミアも聞こえてると思う。
水着以外下着を持ってないなんて。今度買ってあげないと。多少はお金持っているから。
「エミシェルス、今度一緒に買いに行こう。奢るから」
「えっ、でも、シェミーリムは、これからいっぱいお金使うかも。私のために使わすのは、申し訳ないよ。でも、一緒に買いに行くのは嬉しいから、一緒に行きたい」
そんな予定ないんだけど、これも未来視なのかな。できれば具体的に何に使うのか教えて欲しいよ。そこで浪費しすぎないように日頃から気を使えるから。
「一緒に行くのはできないけど、金くらいなら、いくらでも出す」
「そ、そ、そそそ、そんな、そんな気を……しなくて良いの! 」
「エミシェルスに貢ぎたいだけだけど、だめか? 」
「で、でも、私、何も返せないよ」
「……そんな事気にするなら、今度指輪を買いに行くのに付き合ってくれ。二人お揃いのペアリング」
「……行くの」
ペアリングを他の誰かにあげるって勘違いしているのかなと思うくらい落ち込んでる。
「指輪は嫌だったか? なら、ブレスレット? ネックレス? 少し恥ずかしいけど、服でも」
「ふぇ? 」
「だから、エミシェルスが好きなのがどれなんだ? 指輪が嫌なら、他を考えるから」
「ゆ、指輪で良いよ! 指輪が良い! わ、私、シェミーリムと一緒に探すから、シェージェミアはヴェレージェと一緒に探して。シェミーリム、あっちで一緒に探そ」
「うん」




