11話 猫の像
今日も大雨。でも、いつまでもここにいるだけじゃいけない。
今日は、大雨でも、外で異変解決へ行く事になったけど、雨だと視界が悪い。
それに、滑りやすいから気をつけないと。
「……猫……猫……にゃん……にゃぁ……にゃん」
「ヴェレージェ? どうしたの? 」
急に猫とかにゃぁとか、おかしくなっちゃったのかな。大丈夫かな。普通に心配なんだけど。
「猫がいっぱいいるなって思って。この大量の猫」
「そういえば、さっきから猫ばかり。もしかしてこれが異変とか? ってそんなわけないか。猫は普通にいるから」
「……僕、猫好き。じゃなくて、異変じゃないとは言い切れないよ。もう少し調べないと何も分からないけど」
調べると言っても、猫を調べるってどう調べれば良いんだろう。変な行動をしていたら怪しいと思うとかがあると思うけど、そういうのはなさそう。
普通にみんなで一緒に暮らしている猫にしか見えない。
「にゃぁー」
「可愛い。どこからどう見ても普通の野生の猫だけど……今ちょうど猫の餌持ってるからあげてみよっと」
「にゃぁー」
ヴェレージェが猫の餌をあげているのに、誰も食べない。どうしてなんだろう。野良の猫なら、お腹空かせて飛びつく事はあっても、食べないなんて事は珍しい気がする。
「……こっちなら食べてくれるかな? 新鮮な野菜だよ」
「にゃぁー」
野菜って猫に大丈夫なの?
だめな気がするんだけど。でも、野菜はみんな食いついてる。猫の餌には食いつかなかったのに。なんでなんだろう。
「……シェミーリム、この猫達、みんな元は人だったんじゃないかな。確かめる術はないけど、そうだとすれば、突然猫に変わった原因がどこかにあるはず」
猫に変わった人。どうにかして、話を聞けたら良いけど、猫語なんて分からないよ。そんなの猫じゃない限り分かるわけないんじゃないかな。
猫?
そうだ。変化魔法で猫になれば、会話ができるかもしれない。ものは試し。早速やってみる。
「にゃー(こんにちは、初めまして、わたしは……シェミーです)」
前の世界征服を計画している組織の事があるから、本名を言うのは避ける。万が一の事もあるから。
「にゃぁー(おお、猫神様。我々をお許しください)」
「にゃぁ? (許すって、何か悪い事したの? )」
「にゃぁー(罪を自分達で告白しろと言う事ですね。数日前、姫の遺跡を荒らしました。姫など実在しない。こんな場所があるから、この土地が荒れているんだと言う話を聞いて、姫の遺跡をめちゃくちゃにしました。そうしたら、呪いのように、起きると猫になっていたのです)」
姫の呪い。そんなのはないと思うけど。
「にゃぁー(ああ、お許しください。猫神様。どうか我々をお助けください)」
……とりあえず、元に戻って、ヴェレージェに伝えないと。
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「……姫の呪い。そんなものあるわけがない。でも、そこに何かが隠されてる可能性は高いから、行って損はないだろうね」
「うん」
どうして姫の呪いなんて言われているんだろう。それに、あの人? 達からは、姫の遺跡を荒らした事を何も思ってないみたいだった。
自分達が猫の姿になったから許してと言っているだけで、姫の大事な場所を荒らした事について反省しているわけじゃない。
困っている人がいるから助けないと。そうは思うけど、姫の大事な場所に対しての仕打ちとか反省していない態度とか考えると、素直に助けたいって思えない。
こんなんじゃ、世界に幻滅されて見放されるかもしれないのに。
もしかしたら、元に戻ったら反省してくれるかもしれない。今はそう思う事にしよう。
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姫の遺跡についた。
「……ここは、お姫様達の遊び場。お姫様はここで遊んで、畑とかもここだったとされている。あれが、畑の跡じゃないかな」
柔らかそうな土がある。壊れた水汲み場の破片だらけだけど。
「……あった。お姫様の書いた文字」
壊れた柱に、文字が書かれている。書いてある文字は、昔すぎて読めない。古語の勉強でもしていれば読めたかもしれないけど。
「……また逃げられたの。今度こそ逃さないの。これを見てる……は、今すぐに……の元へ来るの。こないと拗ねるの……お姫様が大切な人に向けて書いた内容のようだけど……逃げる? 遊んでいたようには見えない」
「ヴェレージェ、こっちも太い木にも何か書いてある」
昔からあった木なんだろうね。文字が書いてある。読めないけど、ヴェレージェなら、読めると期待する。さっきの文字も読めたから。
「……今日、ここで結婚式をしました……は……だけを愛しているのです。大好きと言うのです。いつまで経っても、きっとこの愛は変わらない」
結婚式……今ですらそんなにやっていないのに。やっているのは王族とかだけだよ。
昔は……って事はないのかな。それならもっとちゃんとした建物でやってると思うから。
「これを最後に……します。これからは、みんなの……として生きるから」
「これって、消えた理由と関係あるものなのかな」
最後にとか、消えた理由みたいな感じがする。
「ううん。これは、世界から与えられた使命を果たしたから、この先は世界からの使命を果たすためじゃなくて、大事な人達のために生きる。そういう事を書いているんだと思う。消えた理由は別。それより今は猫になった原因を探さないとでしょ」
「うん。でも、本当に原因なんてあるのかな」
「あるよ。お姫様とは別で。お姫様には関係のない原因が必ずどこかに存在する。それを見つけ出す事は、優しいお姫様が誰かを呪う事なんてないという証明なんだ。絶対に見つけ出さないと」
ヴェレージェは、姫にどうしてそこまで詳しいんだろう。それに、どうしてそこまで姫を庇うんだろう。わたしも、勝手に呪いとか言って、反省していなさそうな人達には、少しだけ怒りを覚えたけど、ヴェレージェのは、そういう感じじゃないみたい。
「あった。猫になった理由はこれだと思う」
「これって」
壊れた猫の置き物? なんでこんなものがあるんだろう。
「お姫様がいた時代のものじゃない。もっと後に作られてる。多分、お姫様が猫を好きと知った誰かが、いつかお姫様が帰ってきた時に見てくれるだろうとおいたんじゃないかな。壊れると猫になる仕掛けを施して」
なんでそんな事を?
贈り物に猫になる仕掛けって必要ないんじゃないかな。
「……もし、お姫様達が壊してしまっても仕掛けは発動しない。自業自得、だけど、王族としてそれで国民を見捨てるのは、流石にできないからね。仕掛けを解いておいたよ」
「ありがとう」
「……早く村へ戻ろう。気になる事があるから」
気になる事が気になるけど、急いで村に戻った。
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みんな喜んでる。猫から戻れて。
「ああ、ありがとうございます。貴方様が、姫の呪いを解いてくださった」
「姫の呪いなんかじゃありません。猫になった原因は、あそこにあった猫の像を壊したから。その像は、姫のいた時代より後に作られたものです。姫は関係ありません」
「猫の像? 姫が呪うために置いたんだろう。とにかく、助かったよ。ワシがこの村の村長。礼をしたい。何か」
「いりません。行こう、シェミー。早く行かないと、間に合わなくなる。今日中にもう一つ村を超えておきたいから」
それは怒るよね。姫の呪いじゃないって言っているのに信じないし、反省もしていない。
「うん」
「お待ちを」
「僕達急いでるんで。この異変の解決に時間を費やして、次の場所へ行く時間が遅くなったから」
ヴェレージェが早歩きで村を出るから、わたしは走って後を追った。
解決して良かったって今までは思っていたけど……




