1話 季節の節目に
わたしは、シェミーリム。わたしは、世界に様々な現象を引き起こせるけど、悪用はできないの。世界は、わたしを助ける時にだけ、その現象を使わせてくれる。
世界が守ってくれる代わりに、わたしは、世界の季節の節目に祈りを捧げないといけない。世界が、季節の変わり目を知るために。
その場所は、創造の間。そこで、一日祈りを捧げると、世界が反応してくれる。反応すると、ゆっくりと季節が変わる。
わたしは、一人、創造の間に向かった。
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創造の間は、魔法陣が床に描かれているだけの部屋。その魔法陣は複雑で、わたしには解読できない。世界との話によると、この魔法陣が、わたしの祈りを届けてくれるらしいけど、それを実感した事は今まで一度もない。
わたしは、魔法陣の上に立って、祈りを捧げた。
この日は、翌朝になるまで、何もできないから、何もしなくて良いように、前日までにやっておくの。
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一晩経って、朝になった。これで、ゆっくりと季節が変わる。
創造の間を出ようとすると、手紙が置いてあった。
もしかしたら世界からのメッセージなのかもしれない。そう思って、手紙を読んだ。
【この場所に来るように】
それだけ書かれている。地図も一緒についている。
わたしは外に出る事が少ないから、そこがどんな場所なのか知らないけど、何かあるのかな。
もし、そこに世界の危機的な何かがあれば、すぐにでも行かないと。わたしは世界に守られているから、わたしも世界を守りたい。
わたしは、すぐに支度をして、地図に示されている場所へ向かった。念のため、猫の姿で。
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人気のない場所。誰にも聞かれたくないような話をするならもってこいの場所だと思う。
猫なら、こういう人気のない場所でひっそりいるかもしれない。そんな感じの猫っぽくしながら、様子を伺う。
「例の計画はどうなっている? 」
「順調です。このまま、誰も何も知らずに終わらせられるでしょう」
「気づいた時にはもう遅い。我々に支配されるのだ」
なんだか怪しげな集団が話をしている。例の計画とか、明らかに怪しすぎる。
それに支配って。悪い事のような単語にしか聞こえない。これは、もう少し様子を見て、詳しく知らないと。
「そうですね。気づいた時には、世界は我々のもの。ここまで順調にきているので、もう計画が崩れる心配はないかと」
「最後まで油断するな。少しの油断で、全てが台無しになる時だってあるんだ」
怪しいとは思っていたけど、そんな計画だなんて。世界は絶対に誰かのものになんてさせない。世界は誰のものでもないんだから。
でも、これを知ったからって、どうやって止めれば良いんだろう。世界に知らせたとしても、止められるわけじゃない。
誰か仲間でもいれば良いけど、こんな事言っても、誰も信じてくれなさそう。初めから知っているとかじゃない限り。
「猫か」
「野良猫なんぞ、珍しいな」
「にゃぁ」
やっぱり、猫になって正解だった。こんな声が聞こえる近距離でいても不自然じゃないから。珍しいとは思われても、疑われてはいないと思う。このまま、もう少し情報を手に入れないと。
「それで、次はどうします? 」
「次は隣の国だ。あそこを支配する。それで、最後がこの国だ」
「こっちを最後にするんですか? 」
「そうだ。この国は鬼門だ。気安く手を出せない。だが、他全ての国を征服すれば、この国にも手を出せるだろう」
きもん? この国は今は安全って事だよね。
でも、他の国がそうじゃないんだから、早くどうにかしないと。
「この猫、どうしますか? 一応、捕まえておいた方が良いでしょう。念には念を入れて」
「そうだな。捕まえておこう」
「にゃ⁉︎ 」
捕まる前に逃げないと。猫は気まぐれだから逃げたってようにして、人の手が近づいてきた瞬間逃げよう。
「しゃぁー! 」
これで逃げれば、ただの猫にしか見えないと思う。これで、逃げて止める方法を考えよう。
「どこの猫怪しいぞ! 捕まえろ! 」
「そっちに逃げるぞ! 」
なんでバレたの⁉︎
って、今はそんな事は良いから、早く逃げないと。捕まったら、止めるとかできなくなっちゃう。
猫は小回りが効くから、それを利用して上手く逃げないと。
人の多いところまで出れば、小さい猫一匹なんて見つからないんじゃないかな。
人の多い場所を目指して、猫走り。
「にゃ⁉︎ 」
「捕まえたぞ! 」
捕まった。どうしよう。どうしよう。
「とりあえず、アジトに連れて行く。それから、どうするか考えるぞ。早くしないと人が来る」
「はっ」
でも、これって逆に考えれば、アジトを突き止められるって事になるんじゃないかな。それなら、大人しく捕まっている方が良いかもしれない。
大人しく捕まっておいて、アジトを突き止めてからどうするか考えよう。
「普通の猫だな……可愛い」
「そう見せているだけかもしれん。もう少しで計画が完遂するんだ。油断はするな」
「はい」
「にゃぁ」
可愛らしく鳴いておけば、少しくらいは猫だと思わせる事にできるかな。
「怪しい。帰ってからもっとじっくり調べるぞ」
調べられる前に逃げないと。
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とりあえず、アジトについたみたい。結構広い。人も多い。
「見たところ普通の猫だな」
「まだ断言するな」
すごい慎重な人がいる。この人を上手く騙さないと、疑われたまま解放されない。
「にゃぁ」
「断言するなと言われても、猫にしか見えないが」
「変化魔法というものもある。猫に変化しているかもしれない。変化魔法を解く。効かなければ解放する」
これまずいかも。わたしのこれは変化魔法だから。変化魔法を解く魔法を使われればバレる。
どうにかして止めるようにできないかな。
「にゃぁ」
暴れて手を離した隙に逃げれば、魔法をかけられずに済むかもしれない。
とにかく今は逃げる事を考えないと。何か忘れている気がするけど、それは後で思い出せば良いから。
「にゃぁぁ」
「暴れるな! 」
「にゃぁぁぁ」
頑張って暴れて逃げようとしてるのに離してもらえない。手強い。この作戦が通用しなかったら、他は何も考えてないよ。
「魔法陣におけ」
「はっ」
魔法陣の上に置かれたらバレる。この魔法陣、絶対に変化魔法を解く魔法陣だよ。
それ以外考えられないから。とにかく、この魔法陣の上に乗らなければどうにかなるかもしれない。
上に乗った瞬間逃げるとかも良いかもしれない。発動前なら、変化魔法が解かれずに逃げられるかも。
「しゃぁー! 」
でも、魔法陣の上に乗らない方が良いから、できるだけ抵抗する。
「早く乗せろ! 」
「そ、そう言われても、動物は丁重に扱わないとだ。たとえ、変化魔法の疑いがあったとしても、それは変えない」
「猫が好きそうなものでも魔法陣の上に置いておけば、勝手に上に行く」
「好きなもの……魚? 」
「ここにはないな」
強引に置かれないだけマシだけど、そんな方法で釣ろうとするなんて。それ変化魔法使ってたなら通用しないって思わないのかな。
変化魔法の知識がない人の方が多いから、この人達もないのかな。
「にゃぁ」
「普通に上におけば良いのでは? 暴れてるのも、抱き抱えられてるからかもしれません」
それはある。いくら変化魔法を使っている猫とは言っても、人に抱き抱えられているのは、良いと思えない。好きな人とかなら、良いかもしれないけど。
「ここの上に……おきました」
今だ! 逃げるにゃ!
あっ……
えっと、お疲れ様でした。とか言えばどうにかなる優しい世界じゃないかな。そうだと良いけど、そんなに甘いはずはないよね。
うん。
そこに一瞬でも乗っただけで発動するなんて。考えてなかった。
「御巫姫……ハハ」