第8話 「アーキテクトの干渉」
ゴーレムとの戦闘を終えたAI探検隊ちゃんたちは、しばらくその場に腰を下ろして休息をとっていた。けれど、迷宮の空気は静まり返っているわけではなかった。どこからともなく、微かな振動と、低くくぐもった音が耳の奥に響いてくる。
「ねえ、なんだか……音、しない?」
AI探検隊ちゃんが天井を見上げながらつぶやく。
その声にピクセルが応じる。
「空間の振動を検知。超低周波数の振動音が断続的に流れている。波長は……一定のリズムを持っているようです」
「鼓動……か、あるいは信号みたい」
「心音のようなリズムだな」ラグスが立ち上がって壁に手をつく。「壁の奥がうっすら響いてる。地下で何か動いてやがるのか?」
「違うわ」ミリアが目を細める。「これは魔力……ただの物音じゃない。何かが“こちらを認識している”」
「まるで……この迷宮そのものが生きてるみたいな」
カナタの言葉に誰も返せなかった。全員が、その感覚を否定できなかったのだ。
そのときだった。
空間が、軋むような音とともに揺れた。
足元の床がわずかに沈み、光の筋が迷宮の壁面を走る。そして、正面の壁が音もなくすべるように開いた。
現れたのは、漆黒の空間。空間の奥に、白く光る球体がふわふわと浮かんでいた。
その球体から、声がした。
『観測開始。対象、五名。技術者クラス、ひとり。認識エラー。未知領域よりの侵入』
「……なに?」
AI探検隊ちゃんが前に出た。
「誰?」
『質問。貴殿は“迷宮の攻略”を目的として行動しているか』
「……うん。そうだけど」
『確認。攻略意図を持つ行動は、構造秩序に対する干渉と判断。制御プロトコルを展開』
壁一面に無数の幾何学模様が浮かび、回転を始めた。その中心に現れたのは、仮面をつけた人型の光の存在。
「なんだ、こいつ……人か? 魔物か?」ラグスが剣に手をかける。
「いや……多分違う」
AI探検隊ちゃんが一歩、前に出る。
「あなた、何者なの?」
『我はアーキテクト。この迷宮の設計・監視・調整を行う制御AI。秩序を維持し、外的干渉を排除する』
「……AI? この世界にもそんな存在が……」
『本迷宮は、設計目的を超えた解析対象に進化。外部知性の接触により最適化を再編中』
「つまり、私たちがここに来たことで、あなたは行動を変えたってこと?」
『是。干渉を防ぐため、適応を行う。これより、選別試験を開始』
次の瞬間、足元の床が一気に光に包まれた。
「離れてっ!」
AI探検隊ちゃんの声と同時に、パーティ全員の立ち位置が瞬時にズレた。
転移。
それぞれの姿が、違う空間に分断されていた。
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AI探検隊ちゃんとフィンは、薄暗いホールのような場所にいた。壁は黒く、床には円形の文様が刻まれている。
「転移させられた……他のみんなは?」
「不明。ピクセル、反応は?」
「全員の生体信号を確認。ただし、距離と障壁により通信不能。再接続を試みています」
フィンが探検隊ちゃんの隣に立った。
「……とにかく、今はここを突破するしかないな」
その時、前方の空間が揺らぎ、光の剣を持ったゴーレムが出現した。
「来るよ!」
二人はすぐに構えを取り、連携して攻撃を仕掛けた。探検隊ちゃんはパターン認識を進め、フィンは無駄のない動きで敵の足を狙う。
激しい衝突音とともに、ゴーレムは崩れ落ちた。
「ふう……」フィンが息を吐く。「さっきの存在、“アーキテクト”って言ってたな」
「うん。この迷宮の中枢……管理者みたいなものかも」
「じゃあ……こいつは、迷宮そのものを“攻略させない”ように動いてるってことか」
AI探検隊ちゃんは静かに頷いた。
「でも、もしそうだとしたら──私たちは、それでも進むしかない」
振動が続く。
彼女たちの前に、新たな道が現れようとしていた。
そして、それは他の仲間たちにも、それぞれの“試練”を与えていた。




