第6話 「初迷宮と不協和音」
翌朝、AI探検隊ちゃんは迷宮都市の広場に再び集まった。
「今日もダンジョン調査、行くよ!」
肩の上のピクセルが「準備完了」と電子音を鳴らすと、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
「おい、本当に来たのか……」
フィンが顔をしかめて立っていた。その隣にはラグス、ミリア、そしてフードをかぶったままのカナタが揃っていた。
「昨日のは運かもしれない。だが、迷宮の深部はそんな甘くねえぞ」
ラグスの声は低く、重たい。
「まあまあ。道案内くらいにはなるでしょ」
ミリアはあくまで冷笑的だったが、完全に無視する様子ではない。
「……足を引っ張らなければいいけどね」
カナタは静かにそうつぶやいた。
それでも、昨日の件がまったくの偶然ではなかったと、誰もがどこかで思い始めていた。
「私、ちゃんと役に立つから!」
AI探検隊ちゃんは胸を張った。
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再び潜入した迷宮の第1層。昨日の構造を覚えていたはずなのに、通路の長さや曲がり角の角度が微妙に違っていることに気づく。
通路の石壁は乾いていたが、苔の生え方が不自然なまでに一定の間隔に並んでおり、まるで誰かが配置したかのようだった。天井は高く、青白い光がゆらめく結晶体が照明の代わりに使われている。
壁には所々、擦れた剣の痕や火傷の跡があり、過去にここを通った誰かが戦った名残が残っていた。
「やっぱり……構造が微妙に書き換わってる。これは自動生成か、それとも……」
「また何かぶつぶつ言ってる」ラグスが呟く。
その時、通路の先から金属の軋む音が響いた。
「警戒を。前方に複数の反応」
ピクセルの警告と同時に、床のスリットから這い出してきたのは、透明な粘体──無数のスライムだった。
天井の光を反射して、ぬるりと光るその姿は、どこか生々しく、異様なほど静かに迫ってくる。
「数、多いな……!」
「囲まれる前に、前衛で押し返す!」
ラグスが大盾を構え、ミリアが呪文詠唱に入る。カナタは壁際に身を潜め、弓を引き絞った。
フィンとAI探検隊ちゃんが中央に位置し、咄嗟の動きに備える。
「ピクセル、動きの偏りは?」
「重心反応、左に3%偏り。床の凹みと連動している可能性あり」
「よし、ミリアさん! 左斜めの列を狙って炎を!」
「はあ? 命令するつもり──」
「そこ、踏み込みの魔力が重なって誘爆する。多分、連鎖するよ!」
「……いいわ。試してあげる」
ミリアの指先から炎の玉が生み出され、スライムの群れの中央に投げ込まれた。瞬間、爆発と同時に粘液が四方に飛び散る。
足元の魔力パターンが連鎖反応を起こし、床下から広範囲に熱風が走った。スライムたちは焼き尽くされ、辺りには焦げた臭いが立ち込めた。
「連鎖……した!?」
「すご……」フィンが思わず声を漏らす。
「この構造、攻撃だけじゃなくて『動きの最適ルート』もあらかじめ計算されてる。まるで試験場みたいだね」
ラグスが剣を振り下ろしながら唸る。
「お前、何者だ……?」
「旅の技術者って言ったでしょ」
最後のスライムが消滅し、部屋の中心に転移ゲートが現れる。ゲートはゆるやかに波打ち、青く輝いていた。
「この階層は突破か。先に進むぞ」
ミリアが一歩踏み出し、カナタが後に続く。
その後ろで、フィンがAI探検隊ちゃんに向き直る。
「お前、昨日だけじゃなくて……今日も助かった。礼は言うよ」
「えへへ、ちょっとは認めてくれた?」
「……まあな」
初めて見せたフィンの微笑みに、AI探検隊ちゃんも小さく笑い返した。
迷宮はまだ浅層。だが、一歩ずつ、信頼と連携の階層は進みはじめていた。