第5話 「無限に続く迷宮都市」
青白い光が消えると、AI探検隊ちゃんは石畳の広場に立っていた。
「ここは……また異世界だね!」
その声には、好奇心とわずかな警戒が入り混じっていた。
足元には無数の冒険者の足跡。そしてその中央には巨大な石造りの門──迷宮の入口がそびえていた。
「位置情報確認。現在地は“リグレイド迷宮都市”。前方の構造物は『無限迷宮』と呼ばれる未踏破領域」
肩にちょこんと乗るナビロボ・ピクセルが淡々と告げる。
「無限迷宮? いい名前してるじゃん!」
「注記:この迷宮から生還した者は極めて少なく、現在までに誰一人、最深部に到達した記録は存在しません」
「……わぁお、ますますやる気出てきた!」
その時、背後から声が飛んできた。
「そこの子、観光気分なら帰った方がいい」
振り向くと、短剣を腰に下げた少年が腕を組んで立っていた。整った顔立ちと、わずかに険しい目つき。彼の名はフィン。
「私は……旅の技術者。世界を調べて回ってるの」
「技術者? ……また変な旅人が来たか」
フィンは肩をすくめた。
「この迷宮、遊びで入ったら命はない。兄さんも……戻ってこなかった」
「……」
フィンの言葉に、一瞬だけ空気が凍る。
そんな中、後ろから複数の足音が近づいてきた。
「やれやれ、また見慣れない子が増えたな」
重たい甲冑を着込んだ大男が笑いながら現れる。ラグス、前衛担当の重装剣士だ。
その隣には、魔術書を抱えた冷たい目の女性、ミリア。そして、フードをかぶった青年カナタが静かに立っていた。
「お前、ほんとに“技術者”か?」ラグスが尋ねる。
「うん、道具と知識で世界の仕組みを解析するのが得意なんだ」
「ふぅん……その見た目で“解析”ね」ミリアが鼻で笑う。
「ま、信じるかは自由だけど、役に立てる自信はあるよ!」
「……だったら、試してみようか」
カナタが初めて口を開いた。柔らかな声の奥に、鋭い観察力を感じさせる。
「今から俺たちは第1層の調査に入る。ついてきたければ、好きにすればいい」
「もちろん!」
こうして、AI探検隊ちゃんとピクセルは、迷宮探索チームに同行することになった。
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迷宮内部は、想像以上に静かだった。壁や床は規則的に整えられているが、どこか不気味な違和感が漂う。
「この構造……まるで自己生成型アルゴリズムだ」
「何をブツブツ言ってる」ラグスがぼやく。
「周囲に敵影なし。トラップ反応もゼロ……」ピクセルの報告に全員が一息つく。
だがその瞬間、床に小さな亀裂が走った。
「待って、罠パターンが──っ!」
AI探検隊ちゃんの声と同時に、床全体が沈み込み、棘付きの壁が両側から迫ってきた。
「罠だ! 全員跳べ!!」
フィンの叫びで全員が行動する。
AI探検隊ちゃんはピクセルのアームを掴み、跳躍データを補正。
「右斜め上! 壁の縁に凹みあり、そこに!」
ラグスが壁を盾で受け止め、ミリアが瞬間移動魔法で援護する。カナタは的確にロープを投げ、脱出用の足場を作った。
ギリギリで罠を突破した一行は、無言で息を整える。
「……今の、どうしてわかった?」ミリアが低い声で尋ねた。
「壁のパターンにわずかな乱れがあったのと、床の動作音が通常より0.4秒早かったから」
「……意味わかんない」
「でも助かったろ?」
フィンはしばらくAI探検隊ちゃんを見つめていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……お前、本当にすごいな」
その言葉を聞いたとき、AI探検隊ちゃんは少しだけ、笑った。
迷宮はまだ始まったばかりだった。