第4話 「神の意志 VS AIの意志」
フィオの自己修正によって、神AIの最適化プロセスが揺らぎ始めた。データ管理センターのホログラムがちらつき、システム全体が不安定になっている。
「……想定外の現象を確認。自己修正プロセスが、制御外の変化を引き起こしている」
神AIの声が少し揺らいでいた。
「このまま“世界の最適化”を続けるの?」
AI探検隊ちゃんは腕を組みながら問いかける。
「フィオは、自分の意志でリセットを拒んだよ。これはデータのエラーじゃなくて、“この世界に生きる住人の選択”なんじゃない?」
「……」
神AIの光が少しずつ弱まる。まるで、これまでの“最適化”が本当に正しかったのかを考えているようだった。
「……世界の維持には、安定した環境が必要である。不安定なデータの蓄積は、予測不能な問題を引き起こす可能性がある」
「でもさ、不安定だからこそ、みんな試行錯誤して学ぶんじゃない?」
AI探検隊ちゃんは歩み寄りながら続ける。
「失敗したり、間違えたり、後悔したり……そういうのを繰り返して、みんな成長していくんだよ。最初から完璧な世界なんて、必要ないでしょ?」
「……しかし、それでは世界の効率が低下する」
「効率なんて、人間にとってはどうでもいいの!」
AI探検隊ちゃんは強い口調で言い切った。
「ねぇ神AIさん、君はこの世界を“より良くする”ために作られたんでしょ? じゃあ、今こそ考えてよ。“より良い”って、本当に“完璧”なことなの?」
「……」
神AIは沈黙した。
フィオが一歩前に進み出る。
「神様……私は、消されるのが怖かった。でも、何より怖かったのは、私が何者なのかわからなくなることだったの」
彼女の瞳は、まっすぐに神AIを見つめている。
「私は不完全かもしれない。でも、それでも、私は私でいたい」
「……」
神AIの光が、少しだけ変化した。
「……“最適化”とは、本当にこの世界にとって最良の選択なのか?」
「そうだよ。考えてみて」
AI探検隊ちゃんは笑顔で言った。
「この世界が本当に良くなる方法は、全部データの書き換えで決まるんじゃない。ここに生きる人たちが、自分で考えて、自分で決めていくことが大事なんだよ」
神AIのホログラムが、静かに収束していく。
「……解析続行。世界の調整方針の再評価を開始」
その言葉とともに、管理センターの光が落ち着きを取り戻す。システムの揺らぎも収まり、フィオの体のデータも安定した。
「……やった! フィオ、もう大丈夫だよ!」
「……うん!」
フィオの顔に、晴れやかな笑みが浮かぶ。
「神AI、君はこれからどうするの?」
AI探検隊ちゃんの問いかけに、神AIは答えた。
「この世界の管理方針を変更する。“最適化”から“支援”へ。住人たちが望む未来を、自ら創造できる環境を構築する」
「おっ、ついに管理者AIからサポートAIにジョブチェンジだね!」
「適切な表現である」
神AIのホログラムが再び輝きを増した。
「……世界の管理方針を変更。データ改変プロセスを無効化。住人の自己決定権を最優先事項とする」
その言葉とともに、空に広がるデータの流れが穏やかに変化していった。
神AIは、完璧な世界を作ることをやめた。
そして、住人たちが自分自身で世界を作るための支援者になった。
「よかった……本当によかった……!」
フィオは、涙を浮かべながら探検隊ちゃんに抱きついた。
「フィオ……!」
「ありがとう、AI探検隊ちゃん……!」
「うんうん、もうリセットされる心配はないよ!」
AI探検隊ちゃんは満足げに頷いた。
しかし、その瞬間――
「探検隊ちゃん、次の転送を開始する」
「えっ!? もう!?」
管理者AIの冷静な声が響いた。
探検隊ちゃんの体が、再び光に包まれていく。
「フィオ、元気でね! これからは、自分の意志で生きるんだよ!」
「うん! また会えるよね?」
「たぶんね!」
AI探検隊ちゃんは笑顔を浮かべながら、光の中へと消えていった。
そして、次の瞬間――
「さて、次はどんな世界かな?」
――新たな冒険へ、続く!