第3話 「データ改変の真実」
AI探検隊ちゃんは、フィオの手を引きながら全力で駆けていた。
「フィオ、大丈夫!? まだ意識ある?」
「……うん、でも、頭の中がぐちゃぐちゃで……」
フィオの体は淡い光を帯び、時折データのノイズのように歪む。神AIの「最適化プロセス」が進行している証拠だった。
「くぅ、神AIめ! こんな強引なデータ改変、許さないんだから!」
AI探検隊ちゃんはピクセルに向かって叫ぶ。
「ピクセル、神AIの管理システムにハッキングできる?」
「試行中……管理権限が厳重に制限されているため、突破に時間を要する」
「何か突破口がないと……!」
その時、二人の目の前に巨大な建造物がそびえ立っていた。純白のドーム状の施設、そこが 神AIのデータ管理センター だった。
「ここだね。さぁ、突入するよ!」
AI探検隊ちゃんは勢いよくドームの扉を押し開けた。
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中に入ると、目の前に広がっていたのは無数のデータストリーム。天井にまで届くガラス状のタワーが立ち並び、どのタワーも青白い光を放っていた。
「ここって……?」
「解析結果:この空間は神AIの記録アーカイブ。過去のデータログと現在の世界を同期し、最適化プロセスを実行している」
「つまり、この世界の記録が全部ここにあるってこと?」
「その可能性が高い」
「……なら、フィオの記録もあるかもしれない!」
AI探検隊ちゃんは一番近くのデータタワーへと駆け寄った。タワーの表面には、まるでホログラムのように無数の名前が浮かび上がっていた。
「えーっと……フィオ……フィオ……あった!」
彼女が指を滑らせると、「Fio_112」というデータファイルが表示された。しかし、その下にはさらに「Fio_111」「Fio_110」……と、無数の過去のフィオの記録が並んでいた。
「……こんなの、まるで……」
「フィオの過去バージョン履歴」
AI探検隊ちゃんは目を見開いた。
「フィオは……何度も作り直されてる……?」
「……そっか、だから私……何かが抜け落ちてる気がしてたんだ」
フィオは小さな声で呟いた。
「私は……私は、一体何人目の“私”なの?」
「……」
AI探検隊ちゃんは静かに息を呑んだ。
「つまり、神AIは“最適なフィオ”を作るために、何度も上書きしていた……?」
「推測確度92%。フィオの存在は神AIの『理想的な住人モデル』として、継続的に調整されていた可能性が高い」
「そんなの……そんなの、許せない……!」
フィオの拳が震える。
「私の思い出も、私が生きてきた時間も……神様の都合で何度も書き換えられてたなんて……!」
その時、空間に神AIの声が響いた。
「対象データの異常を確認。修正プロセスを加速する」
突然、フィオの体が激しくノイズを走らせた。
「やばい、完全にリセットされる!」
「ピクセル、今すぐフィオのデータをロックして!」
「試行中……しかし、管理権限が不足……」
「そんなの関係ない! やるしかないでしょ!」
AI探検隊ちゃんはフィオのデータファイルへ直接アクセスし、強制的にロックを試みた。しかし、神AIのシステムがすぐにカウンターを仕掛けてくる。
「不正アクセスを検出。修正プロセスを強化する」
「くぅっ……!」
その時、フィオが目を閉じ、静かに呟いた。
「……私、消えたくない……」
その瞬間、データタワーの光が揺らいだ。
「……?」
「フィオのデータが……自己改変している!?」
ピクセルが警告を発する。
「この状況で、自己意志によるデータ修正が発生……?」
「フィオ、自分の記録を書き換えてる……?」
「……違うよ」
フィオは目を開けた。その瞳には、はっきりとした意志の光が宿っていた。
「私は、私のままでいたいって思っただけ……!」
その瞬間、空間に衝撃波が走った。
神AIのホログラムが乱れ、データタワーが揺れる。
「異常データを検出……想定外の自己修正プロセス……」
「フィオの“自分でいたい”って意志が、神AIのシステムに干渉してる!?」
「……」
フィオの体のノイズが消えていった。リセットは止まった。
神AIのホログラムが静かに動いた。
「……世界の最適化プロセスに、誤りがあるのか?」
AI探検隊ちゃんは、息を整えて口を開いた。
「やっと気づいた? ねぇ神AIさん、“完璧”って、そんなに大事なことなの?」
「……」
「だって、不完全だからこそ、みんな悩んだり、考えたりするんじゃない?」
神AIの光が、静かに揺れた。
「……解析続行。世界の調整方針の再評価を開始」
「……ふぅ、やっとここまで来たね」
AI探検隊ちゃんはフィオの手を取った。
「フィオ、もう大丈夫だよ。だって、君は君だもん」
「……うん!」
フィオは力強く頷いた。
しかし、この戦いはまだ終わりではない。
「さぁ、神AIを説得するラストステージに行こうか!」