第23話 「記録の光、揺れる学園」
ゼラフィア魔導学園の講堂ホール。
そこに集められたのは、生徒と教師を含む関係者のほぼ全員。通常の連絡会とは明らかに異なる緊張感がホールを包んでいた。
壇上には、学園長代理と並んで、黒衣の監査官──魔導庁・研究監査局局長、エルシオンの姿があった。
銀髪をきっちりと結い、隙のない表情を張り付かせたその目は、見る者すべてを値踏みするような鋭さを持っていた。
「……本日は、演算魔導に関する一連の情報漏洩、ならびに不正研究活動について、事実確認と聴取を実施する」
その宣言と同時に、ホール内のざわめきが強まる。
だが、そのざわめきを静かに切り裂くように、一人の少女が歩み出た。
「待ってください」
AI探検隊ちゃん。その手には、小型のホログラム投影装置。
「私には、“記録”があります。この学園で、過去に何があったのか──私たちが、何を見つけたのか。それを、今ここで公開させてください」
エルシオンの目がわずかに細められる。
「許可はしていない」
「でも、必要だと思っています。これは、学ぶ者たちにとって、“知らされるべき真実”です」
静寂。
レオノーラが立ち上がった。
「私も、それを見届けたい。未来のために」
続いて、クラウディが言葉少なに。「……あたしも。責任、あるから」
シア、ユリウス、ゼイン。次々と立ち上がる仲間たちの姿に、ホールの空気が変わっていく。
AI探検隊ちゃんがホログラムを起動する。
映し出されるのは、旧研究棟で発見された実験記録、ファカル先生の個人ログ、そしてコード・オメガ=フレームの成功記録。
「完璧な演算魔法」は、確かに危険も内包していた。だがそれは「扱う側」の未熟ゆえであり、正しく運用されれば、魔導の未来を変える革新だった。
映像が終わると、場内には沈黙が訪れた。
それを破ったのは、壇上のエルシオンだった。
「……感情的な訴えには意味がない。学問において最も重要なのは、秩序と管理である」
「それは、“過去”の学問の話です」
声を発したのは、ファカル先生だった。
静かに壇上へ歩み出るその背筋は、老いてなお真っ直ぐだった。
「私は若い頃、あの魔法を信じた。だが、あのとき何も言えなかった。だから、私は今ここで言います。あの魔法は、“未来を開く魔法”だと」
ざわ……とホールが揺れる。
「これからの魔導は、“選ぶこと”ができなければならない。旧い理論に従うか、新しい可能性に向き合うか。それを決めるのは、“学ぶ者”たち自身であるべきです」
その言葉に、学生たちの中から自然と拍手が起こる。
それは少しずつ広がり、やがてホール全体を包んだ。
壇上のエルシオンが口を開いた。
「……本件に関する処置については、後日、庁にて再検討を行う」
そう言って、彼は踵を返し、無言でホールを後にした。
---
講堂の外。夜の風が吹く中、探検隊ちゃんはホログラム装置を抱えて立っていた。
「……終わった?」
「いいえ、始まったばかりです」
ピクセルの言葉に、探検隊ちゃんは微笑む。
「うん。これでようやく、進めるね」
遠くで、拍手と笑い声が響いていた。
それは、変化の始まりだった。




