第21話 「最後の式展開──コード・オメガ=フレーム」
学園の空気が変わった。
魔導庁からの正式な通知が届き、学園の運営側は「情報統制措置」として一部の授業内容を凍結。演算魔導の授業は“調整のため一時中断”となった。
学園広場には監査官らしき黒い外套の職員たちが出入りし、生徒たちの間にも緊張が走っていた。
「いよいよ本格的に動いてきたわね……」
レオノーラが資料室の隅で静かに呟いた。
そこには、彼女、クラウディ、そしてAI探検隊ちゃんの3人がいた。
AI探検隊ちゃんはファカル先生から託された研究ログを机に広げ、最新の演算補助式を組み直していた。
「ピクセル、外部干渉は遮断できてる?」
「はい。この部屋は古い隔離仕様で、外部接続の干渉を受けません。ログデータの解析も進行中です」
「よし──じゃあ、いこうか。コード・オメガ=フレームの展開」
クラウディが目を細める。
「まさか、あんたが“この式”を公開する側になるなんて、思ってなかった」
「私だって最初はただの転入生だったんだけどね」
「……まあ、悪くなかったわ」
クラウディは頬をそらしながら小声で続けた。レオノーラが微笑を浮かべる。
「じゃあ3人でやりましょう。私たちが未来を開く鍵を、ここで確かめる」
三人は端末を囲み、ホログラムの演算式を共有する。
中央に展開されたのは、かつて封印された“完全なる演算魔導式”。
AI探検隊ちゃんが補助演算を加え、ピクセルが演算速度の安定化処理を行う。
「魔力制御準備完了。現在の安定指数、92%。実行可能範囲に入りました」
「よし……展開──!」
式が起動する。
淡い光のラインが床に広がり、魔導陣が組み上がる。
その中心に立つクラウディが、慎重に詠唱を開始する。
しかし、式の中核部に差しかかったとき、魔導陣が激しく明滅しはじめた。
「詠唱制御がブレてる!」
「魔力濃度が上がりすぎてる!」
「落ち着いて!」レオノーラが叫ぶ。
「クラウディ、後半の位相展開、私が引き受ける!」
「は、はあ!? 勝手なこと──」
「今は意地張ってる場合じゃないでしょ!」
レオノーラが自ら陣に足を踏み入れ、クラウディと“協力詠唱”に移行する。
魔力が再び安定し、陣が光を取り戻す。
「最終演算開始。残り5%──」
ピクセルの声が響く中、演算式が完全に展開された。
眩い閃光のあと、空間が静まり返る。
数秒の後、中央に浮かぶホログラムが“安定した演算モデル”として認証された。
「成功……したの……?」
クラウディが息をつきながら呟く。
「うん。これで、証明できた」
AI探検隊ちゃんが言った。
「コード・オメガ=フレームは、制御可能な演算魔法として、正しく扱えば“使える”って」
レオノーラが微笑む。
「過去の封印は“恐れ”からだった。でも、未来の魔導は“理解”から始めるべきだと思う」
クラウディがそっと、レオノーラの手を取った。
「今回だけだから。調子に乗らないでよね」
「ふふ……ありがとう」
その手を、AI探検隊ちゃんがそっと見つめながら、ピクセルに囁いた。
「記録、残せたよね?」
「もちろんです。すべて、未来のためにログしました」
封印された魔法は、ついに解かれた。
だがその代償として、学園と庁との関係は大きく揺らぎ始めていた。




