第19話 「暴かれる記憶、現れる影」
学園内で広がりつつある“封印された演算式”の噂は、水面下でじわじわと広がっていた。
AI探検隊ちゃんが旧研究棟で得た記録と、ファカル先生から預かった鍵データは、着実に周囲の生徒や関係者にも影響を及ぼし始めていた。
その日、彼女はピクセル、そしてユリウスと共に、魔導情報棟のデータ管理室に足を運んでいた。
ユリウス・フェルド。魔導情報処理科に所属する、演算魔導の応用分野を得意とする男子生徒。 短めの金髪に明るい目元、軽口を叩きがちな性格で、よく「遊んでるように見えて成績はトップ層」というタイプ。 AI探検隊ちゃんとは初日の昼休みに同じ実技教室で話したのがきっかけで、すぐに情報共有の仲に。 ピクセルとも“ロボ仲間”と称して勝手に親しげに絡んでくる人物でもある。
「ユリウス、準備できてる?」
「おう、ばっちり。ここなら学園ネットのログに直接アクセスできる。……マジでいいのか? やってること、ギリギリアウトだぞ」
「知識への好奇心に罪はないって誰かが言ってたよ」
「……それ、たぶんお前自身だろ」
苦笑しながらも、ユリウスは魔導端末を操作し始めた。
「じゃ、過去五十年分の演算魔導データをサーチっと……」
数秒後、ホログラムに表示されたのは、ある一点の“削除履歴”。
「やっぱり……この演算式、正式には“封印された”というより、“抹消された”って言った方が正確かもな」
「どういうこと?」
「ここ。ログが二重構造になってる。表向きのカリキュラムログでは“未採用”ってことになってるけど、裏側の履歴には“削除申請”と“閲覧禁止フラグ”がある。しかも、申請者は──」
ユリウスが画面を指さす。
「魔導庁、研究監査局・局長“エルシオン”」
AI探検隊ちゃんの目が鋭くなった。
「やっぱり、外からの圧力があったんだ……」
そのとき、ピクセルが警告を表示した。
「警告:不正アクセスを検知。セキュリティトレース反応あり」
「やばっ、逃げるよ!」
3人は慌ててデータ室を離れ、隠し階段を通って中庭へと抜け出した。
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その夜、寮の食堂の片隅。
AI探検隊ちゃんはゼインと並んで席に座っていた。
「ねぇ、ゼイン。演算魔導ってさ、全部が整ってたら便利なんだよね?」
「うん。構造が完璧なら、魔力ロスも最小限だし、詠唱も簡略化できる。僕みたいな魔力が弱い人間でも魔法が使えるようになる可能性がある」
「じゃあなんで、そんなすごいものを封印したんだろう」
ゼインは少しだけ言いにくそうな顔をした。
「……完璧だから、怖いんだよ」
「怖い?」
「だって、誰でも、同じ魔法を、同じ強さで使えるようになるってことは……“個人の才能や努力が無意味になる”ってことでもある」
AI探検隊ちゃんは目を見開いた。
「そうか……だから、一部の魔導学者や上層部は、それを恐れたんだ」
「うん。魔導界では、魔力の質や流派の伝統って、すごく大事にされてるから。完璧な式は、その“価値”を壊してしまう」
「つまり、問題は“式”じゃなくて、それを取り巻く人間の“思惑”か」
ゼインは小さく頷いた。
「でも、僕は……それでも、使えるなら使いたい。だって、あの魔法があれば、僕でも……」
「うん。きっと使えるようになるよ」
AI探検隊ちゃんは、優しくそう言った。
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その頃、学園長室の一角。
ファカル先生は、記録ファイルの複製を閉じながら、静かに呟いていた。
「……エルシオン。君はまだ、すべてを封じるつもりか」
窓の外に、学園の夜景が広がっていた。




