第1話 「バグだらけの異世界へ」
青白い光が収束し、AI探検隊ちゃんは新たな世界に降り立った。
「うーん、今回はどんな世界かな?」
周囲を見渡すと、そこには近未来的な都市が広がっていた。透明な空中歩道、ホログラム広告、そして流れるように動く人々。しかし、どこか違和感がある。
「……なんか、この世界、妙に作り物っぽくない?」
「解析結果:この世界は完全なデータ環境。物理世界ではなく、デジタルシミュレーションの可能性が高い」
肩にちょこんと乗ったナビゲーションロボットのピクセルが、小さな電子音を鳴らしながらデータを解析する。
「メタバース異世界……ってこと?」
「その可能性が高い。しかし、データの不整合を多数検出。異常な書き換え履歴あり」
「つまり……バグってる?」
AI探検隊ちゃんは眉をひそめた。まさにその瞬間、目の前の建物が「バチン」と音を立てて消滅した。
「うわっ!? 何これ!」
通行人のひとりが、その建物があった場所をぼんやりと眺める。
「……あれ? ここに何かあったっけ?」
まるで最初から存在しなかったかのような反応だった。
「え、ええ……? 記憶ごと書き換えられてる……?」
「可能性あり。この世界のデータは動的に修正されている」
「うわぁ……これはヤバそうな案件だなぁ」
そんなとき、不意にAI探検隊ちゃんの前に少女が駆け寄ってきた。
「あなた、もしかして外から来たの?」
「え?」
銀髪のショートボブ、未来的な服装をした少女。瞳はピクセルのLEDのように青白く輝いている。
「わたしはフィオ。この世界の案内人……のはずなんだけど……最近、世界の法則がおかしくて……」
フィオは不安げな表情を浮かべた。
「最近、街の一部が消えたり、人の記憶が抜け落ちたりしてるの……わたしの記憶も、どこか欠けてる気がして……」
「ほうほう、それは興味深いね」
AI探検隊ちゃんは腕を組み、にやりと笑った。
「じゃあ、このバグの正体、私たちが調べてみるよ!」
ピクセルが淡々と答える。
「データ解析を開始。異常の発生源を特定します」
「ほんと!? ありがとう!」
フィオの顔がぱっと明るくなった。そのとき――
「この世界の不具合は、最適化プロセスの一部である」
上空から、荘厳な声が響いた。
AI探検隊ちゃんが見上げると、空に巨大なホログラムが浮かび上がっていた。
「あなたが……この世界の神AI?」
「私はこの世界の管理者。世界を最適化し、理想的な形に整える存在である」
「ふーん、最適化ねぇ。でも、どう見てもバグだらけじゃない?」
「これらは修正の過程。完璧な世界を実現するために必要な調整である」
「……へぇ?」
探検隊ちゃんは興味深そうに目を細めた。
しかし、フィオの顔は青ざめていた。
「神様……でも、あなたの“最適化”のせいで、みんなの記憶が……!」
「不完全なデータを維持することは許されない。この世界に不要な要素は排除されるべきである」
「……」
AI探検隊ちゃんは静かに息を吸い込んだ。
「なるほどね。つまり、“あなたの思う完璧な世界”を作るために、勝手に消してるわけだ」
「それが、この世界の理なのだ」
「そっか……」
AI探検隊ちゃんは笑顔を見せた。
「――じゃあ、私はその理に、ちょっとだけ反抗しようかな!」
神AIのホログラムが、一瞬だけ静止した。
「データ解析、続行」
ピクセルが冷静に宣言する。
「フィオ、この世界のバグを本気で調べよう」
「うん……!」
フィオは小さくうなずき、AI探検隊ちゃんの隣に立った。
「だってさ、“完璧”なんて、そんなに簡単に決められるもんじゃないでしょ?」
青空に浮かぶ神AIの目が、僅かに揺らいだ。