第15話 「失われた記録と禁書の鍵」
演算式α-79──あの授業から、AI探検隊ちゃんの中で何かが明確に変わった。
「ピクセル。昨日の式、改めて再解析できる?」
「もちろん。すでに授業中に記録した展開式を解析済み。省略されていたセグメントに、昨日のノートと類似した記述パターンがあります」
AI探検隊ちゃんは頷きながら、魔導式の構造図をホログラム上に展開した。
「これ……やっぱり、削除されてる。“封印”ってそういう意味だったんだ。存在しないんじゃなくて、“見えないようにされてる”」
「それを暴こうとすれば、当然、関係者にとっては都合が悪いでしょう」
「うーん、でもだからこそ面白い! よーし、次は――」
そこまで言いかけたとき、部屋の扉がノックされた。
「失礼、入っていいかな?」
穏やかな声の主は、レオノーラだった。
「わぁ、レオノーラさん。どうしたの?」
「呼びに来たの。図書局に面白い資料が入ったらしいって噂で、シアが興味ありそうなものを見つけたって」
「それは聞き捨てならないね! よし、ピクセル、出動!」
「了解。情報収集モードに移行します」
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図書局の地下階層にある特別資料室──普段は立ち入り制限がかかっているが、今日はシアの手引きで中に入ることができた。
魔導書がずらりと並ぶ中、彼女は一冊の黒革の厚いファイルを指さした。
「これ。禁書指定じゃないんだけど、分類コードが古すぎて、データベースに引っかからなかった本なの。実は……このファイルの中に、例のノートと同じ記述体系の式があったの」
AI探検隊ちゃんは目を輝かせた。
「ピクセル、内容をスキャン!」
「解析中……一致率84%。この式も、“例の封印された理論”と同系統の可能性が高いです」
レオノーラが眉をひそめる。
「でも、どうしてこんな本が管理されずに残ってるの? 学園は記録の管理に厳しいはずなのに」
「それがね」
シアが小声になる。
「この本の“登録履歴”が空白なの。誰が最後に読んだのか、いつ置かれたのか、全部……“ない”の」
「意図的に消された、ってこと?」
「おそらくは」
その時、資料室の扉が開き、ぴたりと足音が止まった。
「ずいぶんと楽しそうだな」
振り返ると、そこに立っていたのは──クラウディだった。
「あなたたち、また“封印された理論”なんてものに首を突っ込んでるわけ?」
「う……いや、まあ、ちょっとだけ?」
クラウディは本の束を見やり、ため息をついた。
「くだらないわ。過去の魔法にこだわるなんて。そんなことより、今の魔法を完璧に使いこなす方がはるかに有意義よ」
「でも、過去を知らなきゃ、今の正しさもわからないでしょ?」AI探検隊ちゃんが反論する。
「それは理屈だけの話。現場では、速くて強い魔法がすべてよ」
レオノーラが口を挟む。「クラウディ。それはあなたの“考え方”にすぎない。私たちは、“真実”を知りたいだけ」
「ふん、好きにすれば」
そう吐き捨てて、クラウディは踵を返す。
AI探検隊ちゃんは彼女の背中を見送りながら呟いた。
「でも、彼女……本当に“知らない”だけなんじゃないかな」
「たしかに、反応は少し……過敏でしたね」ピクセルが答える。
「過去に何かあったのかもしれないわね」シアが付け加えた。
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その夜、AI探検隊ちゃんは寮の自室でスキャンした資料の再解析を進めていた。
「ピクセル、さっきの黒いファイル、今どこまで解析できてる?」
「70%。残りの30%は旧式の記号体系が不完全で、意味の再構成が必要です」
「じゃあ、別の角度から調べてみよう。たとえば──学園の歴史記録。これって、生徒もアクセスできる?」
「一部制限はありますが、公式履歴なら可能です。学園創設から現在までの主要出来事は年表化されています」
「それ、見せて」
ホログラムが立ち上がり、年表が浮かび上がる。
「……ん? なにこれ」
AI探検隊ちゃんが指差したのは、学園創設から現在に至るまでの履歴の中で、一箇所だけ異常な“空白年”があることだった。
「この年だけ、なにも記録がない……?」
「はい。建前上は“魔導改革期に伴う一時的な記録再構成”と説明されています」
「でも実際は、そこに“何かがあった”んだよね」
ピクセルの目がわずかに光る。
「解析対象としてマークしておきます」
AI探検隊ちゃんは静かに頷いた。
「この学園、絶対に何か隠してるよ。私は、必ず見つけてみせる」
その声は小さいながらも、確かな決意に満ちていた。




