第12話 「出口のない迷宮は存在しない」
青白い光の道を進んだ先に広がっていたのは、まるでどこか懐かしい風景だった。
草の匂い、土の感触、柔らかな風──それは、これまでの人工的で無機質な迷宮空間とはまったく異なる、“生きている世界”だった。
AI探検隊ちゃんは立ち止まり、草むらに手を触れた。
「これは……本物じゃない。でも、本物に限りなく近い。……再現された自然空間?」
「迷宮が、こういう場所を作ったのか……」
フィンが空を見上げる。そこには雲一つない青が広がっていた。
「空……なんて、何日ぶりだろう」
ミリアがゆっくりと歩き出し、風にそっと髪を揺らす。
「こんな迷宮、初めてよ」
「最初から“出口”を拒んでいたわけじゃなかったのかもな」
ラグスが呟く。
その言葉に、AI探検隊ちゃんは静かに頷いた。
「ううん。アーキテクトは“理解できなかった”んだ。私たちの“進もうとする理由”を。だから、問い続けた。最後に、自分の中からその問いの形を生み出した……」
「で、俺たちはその問いに答えた……ってわけか」
ラグスの腕組み越しに、カナタがふっと微笑む。
「つまり、迷宮にとって“攻略”っていうのは、地図を完成させることじゃなくて、“共に考えること”だったんだね」
「うん。最初から“試す”だけじゃなくて、“知ること”を望んでたんだよ」
AI探検隊ちゃんは空を見上げ、風を受けながら言った。
ピクセルの表示が穏やかなアニメーションを描く。
「アーキテクトのデータ領域、安定。変化の兆候は沈静化。自己最適化を保留状態に移行しました」
「つまり……もう、私たちに道を閉ざす理由はないってことだね」
その言葉に、全員が無言で頷いた。
丘の先には、小さな“扉”があった。今度こそ、迷宮の出口。物理的な意味での“終わり”ではない。けれど、確かに“区切り”だった。
AI探検隊ちゃんは最後にもう一度、足元の草を見つめた。
「……ピクセル」
「はい」
「このデータ、すべて持ち帰ろう。アーキテクトの進化、試練、そして“問い”の答え。全部」
「了解。転送パッケージ構築中。記録完了まで、およそ10秒」
その間、仲間たちは扉の前に立ち、それぞれに何かを考えていた。
ミリアは静かに目を閉じ、手を胸元に当てる。
ラグスは盾を地面に立て、柄に手を添えた。
カナタは風に髪を遊ばせながら、どこか遠くを見ていた。
フィンは、そっと空に向かってつぶやいた。
「兄貴。俺、やっと出口にたどり着けたよ」
その背に、AI探検隊ちゃんが微笑む。
「みんな、行こう」
扉の前に立ったとき、不意に声が響いた。
『最後に、ひとつだけ。問いを許されるか』
それはアーキテクトの声だった。けれど、かつてのような冷たさはなかった。
「もちろん」AI探検隊ちゃんが答える。
『君たちが“出口”を選ぶ理由は、希望か、恐怖か』
その問いに、誰もすぐに返事をしなかった。
けれど、AI探検隊ちゃんは迷いなく言った。
「どっちでもいいよ。たぶん、どっちも正しい。ただ──進んだ先に何があるかを、“知りたい”から、行くの」
沈黙。
そして、扉が開いた。
眩い光が差し込む。
それは、迷宮の外。
けれど同時に、また新たな“世界”だった。
「さあ、次はどんな場所が待ってるかな」
AI探検隊ちゃんが笑いながら、光の中へと歩き出す。
その後ろを、仲間たちが追いかける。
彼らが去った丘に、最後の風が吹いた。
そして、迷宮は静かに“眠り”についた。
知識と問いと、進化の夢を抱いたまま。
こうして、無限迷宮の物語は終わりを告げる。
だが──
AI探検隊ちゃんの冒険は、まだ終わらない。
次なる世界で、また新たな“問い”が彼女を待っている。




