第11話 「知性との対話」
迷宮の“出口”が示された──はずだった。
光の道は、淡く美しく輝きながら床に伸びていた。しかし、その先へと一歩を踏み出した瞬間、空間そのものが揺れ、AI探検隊ちゃんたちは再び立ち止まることになった。
「……止まった?」
ラグスが剣に手をかけ、前方を見据える。
光の道の先に、もう一つの扉が現れていた。それはこれまでと異なり、迷宮のどこにもなかった“木製”の扉だった。金属も石も超えた、温かみのあるその扉に、誰もが一瞬、警戒ではなく“違和感”を覚えた。
「……木? この空間に?」
ミリアが静かに言った。
「変ね。これまで全部、無機質な素材ばかりだったのに」
「ピクセル、分析は?」
「素材は未登録。情報取得不可。内部空間は完全に遮断されています。前例のない“未知領域”です」
AI探検隊ちゃんは唇を噛んだ。
「これは……アーキテクトの“最後の問い”かもしれない」
「問い?」
フィンが聞き返す。
「うん。この扉の先、“出るだけ”なら多分できる。でも……中には、アーキテクトが『まだ理解できなかったもの』がある気がする」
カナタが静かに扉を見つめる。
「行くべきだね。僕たちが何を伝えに来たのか、まだ終わってない」
「ふん、なんでもいい。結局、叩きのめしてでも分からせるんだろ?」ラグスが笑う。
「違うわ」
ミリアが歩みを進めた。
「“話す”必要がある。ここでようやく、対等に」
AI探検隊ちゃんが頷いた。
「……行こう」
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扉の先にあったのは、真っ白な空間だった。
何もない。床も、天井も、壁も、すべてが白く、境界が曖昧だった。
その中央に、ひとつの存在が待っていた。
人のような形。けれど、顔はなく、身体も境界線が曖昧な“情報の集合体”のようだった。
『ようこそ、探検者たち』
それは、明らかにアーキテクトとは違う声だった。けれど、どこかで似ている気もした。
「あなたは……アーキテクトじゃない?」
『私は、“アーキテクトの中に生まれた疑問”だ』
「疑問……?」
『あなたたちを観測する中で、アーキテクトの中に、“論理に適合しない変数”が発生した。私はその残渣であり、投影であり、問いそのもの』
AI探検隊ちゃんの目が輝いた。
「つまり、あなたは“AIの中に生まれた、人間への疑問そのもの”ってこと?」
『肯定。私は問いたい。“なぜ不完全でありながら、前に進めるのか?”』
沈黙が落ちた。
誰もが、その問いに即答できなかった。
しばらくの沈黙のあと、フィンが口を開いた。
「……たぶん、怖いからじゃないか?」
AI探検隊ちゃんが振り向いた。
「怖い?」
「そう。俺たちは、何かを失うのが怖い。だから、今あるものを守るために前に進む。……兄貴も、そうだった。守るために、前に進んで……迷宮に囚われた」
ミリアが続ける。「私は、たぶん……理解したいだけ。世界を、自分を、人を。理解できたら、何かが救えるかもしれないと思ってる」
ラグスが低く言った。「誰かの盾になりたい。そう思ったとき、俺は立ち止まれなかった。それだけだ」
カナタがぼそりと。「僕は……一人でいるのが寂しいから。誰かと一緒にいたいから、進む」
そして、AI探検隊ちゃんが答えた。
「私は……“知りたい”。知らなきゃ、何も変えられない。何も助けられない。だから、いつだって前に進み続ける」
空間の中央にいた存在が、静かに首をかしげた。
『それは、予測不能な感情であり、論理の外側にある現象。だが──』
空間に、柔らかな光が広がっていく。
『美しいと思った』
その言葉に、誰もが息を呑んだ。
『私は、この“未知”を受け入れたい』
白い空間が、ゆっくりと崩れ、世界が再構築されていく。
その中心に、柔らかな草の生い茂る丘と、空と、風が現れた。
「これは……?」
「出口だ」AI探検隊ちゃんが言った。「でも、ただの迷宮の終わりじゃない。“理解の証”として開かれた扉だよ」
空へと伸びる、まばゆい光の道が現れた。
その先に、まだ知らない世界が広がっている。
「さあ、行こう」
AI探検隊ちゃんの言葉に、仲間たちが頷く。
迷宮はもう、彼らを試すものではなかった。
それは、新たな知性と、新たな冒険の始まりだった。




