黒服
「ここで待っていれば、奴がもう時期現れるだろう」
私は秘密の細道を抜けて、目的地に先回りすることに成功し、私の計算が正しければ後2、3分も経てば奴が来るはずだ。だが、もちろんこれは私の中の仮定の話でしかない。
仮にもここは夢の世界だ。あの黒服が私の行動を逐一把握していないとも限らない。だが、今は私の中での最善の方法をやることが一番だろうと自分に言い聞かせる。
現実ではもう風に熱気が帯び始め、汗腺の動きも活発化するようになる時期なのにこの世界ではまるで真逆の寒気が広がり、肌は寒さに粒立ち、鳥肌を現出させ、冷え込む体温を調節しながら、奴が来るのを今か今かと待ち侘びる。
しかし、それを待っていたのは私だけではなかったことがこの時、頭上から降ってきた言葉により気づかされる。
「なるほど。こんな道から来ていたのか。どうりで中々いないと思っていたら」
「!!」
私は上を見上げると先程の黒服が少しばかり宙に浮かび、驚く私を嘲笑する甲高い笑声をあげ、私の前へとゆっくりその浮いた体を地面に下ろしていく。
「まさか、こんな早くも私たちを嗅ぎつけるとはねぇ〜。やっぱりお前の存在は油断できないってわけか」
こいつ.......私の存在を知っているのか。
発せられた言動からは明らかに私の存在を認識している趣旨が見え、こいつらにまで知れ渡るほど有名になってしまったかと軽い自虐を心中に浮かべる。
「貴様こそ、何故私を知っている?」
「ん?今更それをお前に答える必要があるか?」
「今更?どういう意味だ」
「どういう意味かって.......」
すると、奴は言葉が言い終わらないうちに私の首を思いっきり締め上げ、そのまま石造りの壁に私を叩きつけ、徐々に締める力を強めたところでその続きを言い始める。
「お前をここで殺すからさ」
顔は黒いヴェールのようなもので覆われているが、その隙間から覗かせた鋭い眼光は発せられた言葉との連関性から流石の私も相対する敵に対しての素直な恐怖心を煽られる。
「アハハハハ!!苦しいか!!」
まずいな......意識がだんだんと遠のいていくのがわかり、視界もぐらぐらと揺れ始める。
クソッ.......私一人じゃこいつの力に抗えない.....。
あいつらがいれば.......。
「グッ!!!」
私をガッチリと締めていた力は途端に弱められ、私は少しばかり出た血反吐を吐き捨てながら、地面に座り込む。
黒服の方へ目を転じると肩のあたりに手を押さえて、中腰になりながら、息を荒げている。
私はさらに反対の方向へと目を向けるとそこには私が待ち望んでいた存在の人影がポツリとそこに一つ現出していたのであった。




