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「んん.......あれ......」


目を覚ますとそこは見慣れた天井に窓からは眩いほどの太陽の光が燦々と照らし、鳥の囀りが僕に朝が来てしまったことを残酷にも告げている。


夢から覚め、僕こと浅沼健一の部屋に戻ってきていることを告げているのだ。


「もう起きなきゃ......」


少しでも遅れたらママにまただらしないって怒られちゃうから。それが怖くて僕は素早く通っている小学校の制服に着替えて、身支度を整える。


階段を下りると鮭や卵、味噌汁のいい匂いが漂い、憂鬱な気持ちが少しは晴れるような気がする。


「おはよう。パパ、ママ」


スーツに身を固め、テレビに映し出されるニュースをコーヒーを片手に飲みながら眺めるパパとキッチンで料理の支度を慌ただしく繰り広げているママの構図は全くいつもと変わったような気配はない。


はぁ.....やっぱり何も変わってないのか。


僕はガックリと肩を落とす。目覚めるまでに見ていたあの真っ暗でジメジメとした世界の中でただ一人だけ現れたあのおじさんが言った一つだけ願いを叶えると言ったあの言葉を思い出す。


僕の放った願いはもちろん優しいパパとママという実に我儘で自分勝手な言い分な願いだが、それが願い事って言うんだと自分に言い聞かせてあの場でそう答えていた。


確かにパパとママのおかげで何不自由ない生活を送れていることは事実。だけれどそれは僕を主体的に扱うというよりもある種の持ち物のように二人の要求に従って、淡々に実現し、それが叶わない時には怒鳴られるなどの叱責を受けることもある。だから僕は常に内に外に完璧を演じなければならない。唯一の安息の場といえば夢の世界ということになるだろうか。ここならば誰も邪魔の入らない僕だけの世界だった。


昨日のおじさんが言っていた僕の心の発露であるとするあの夢はおそらくその通りなのだろう。そして僕はそこに願い事という淡い期待を添えて空っぽの現実の世界へと戻ってきていた。


「あら?もう起きたの?偉いわね〜」


ん?......今のは僕の聞き間違いだろうか。いつもこの時間に起きたら学校に遅れるからと僕に食事を取ることを急かすであろう母さんは優しい声色で僕に話しかけてきている。


「朝ご飯もう作ってあるから冷めると美味しさが半減しちゃうわよ〜」


いつものキリキリとした金切り声ではなく、おっとりとしたようなママに少し違和感を感じながらも僕は自分の席につき、置いてある朝ご飯に手をつける。


もしかして本当にあの願いが......


僕はそう思いながら、恐る恐る朝食の一部を口の中へと放り込み始めた。










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