幻覚の中の贈り人
あれ......ここどこだろう........。
真っ暗な世界が広がり、少年の頭上には満点の星空のようなものがキラキラと広がり、反対に下半身にはまるでドライアイスから溢れた気体のようなものに覆われ、建物や人影も全くない平たく暗い世界を僕はのそのそと手探りをするように徘徊し続ける。
「パパ?....ママ?......」
少年はまずはパパとママを探す。だけどいくら二人を呼んでも全く反応がない。真夜中にこんなに大声で叫んでいたらいつもなら飛んできて必ず大きな声を出さないの!って言って怒ってくるはずだ。と少年は疑いを深める。
しかし、肝心の二人は来ない。少年にとって二人は畏怖すべき存在だが、同時に唯一頼れる大人たちであることに変わりはなく、真っ先に二人を頼ろうとする。自らを心配する声を求めながら。
だが、いくら呼びかけても応答はない。少年は諦めた。
ならば、他の人はどうだろうと友達や近所の人たちの知り得ている者たちの名前をひたすらに叫び続ける。
やはり一向に返答は返ってはこない。少年の心は次第に寂寥と恐慌に蝕まれ、必死にその檻の中で誰かの助けをただ求め続け、その場に倒れ込むように蹲っていた。
「どうしたんだい?坊や?」
その少年の肩をポンポンと叩き、おおらかで優しい声をかけてきた人物に少年は振り返るとそこには大きな袋を持ち、鼻は長くまるで木彫りのような肌の質感に黒い服を纏った男性がそれまで誰もいなかったこの少年のみの世界に踏み込んできていた。
「おじさん....誰?」
「あはは!おじさんとは失礼だな。君がここに迷い込んで項垂れているんで心配で話しかけたのさ」
そう語りかける男はさらに少年の心の中を全て理解したように少年が抱くこの世界への疑問に答え始める。
「ここがどこだかわからないって顔をしているね?よしわかった。教えてやろう。この世界は言わば君の夢の中の世界と言えばわかりやすいかもしれないね」
「僕の夢の世界?」
「ああ。君の体は今眠っている状態だけれども意識ははっきりとこの夢の世界の中で存在しているんだ。そして君が何故ここに来たかは君の心にその理由があるんだよ」
この世界の説明を始めるその男は何故少年がこの世界に迷い込んでしまったのかの理由は少年の心の中にあるとする。
「僕の.....心の中?」
「そうだ。君の心の中の悩みがこの真っ暗な夢の世界となって現れてしまっている。そこで君に一つ私から提案があるんだ」
「?」
「君の今解決したい悩みを一つ言ってごらん?なんでも叶えてあげるよ」
その不気味な笑顔と深淵な瞳によってその少年は一つの悩みが吸い寄せられるように口から飛び出し、その瞬間からこの世界は霧が一面に立ち込め、だんだんと少年の意識も遠くは遠くへと消えてしまっていた。




