おいかけっこ
「さぁ〜て。どうしたもんかな〜」
さも当然であるかのように言葉をつらつらと並べるストーカーは何か余裕をこいているように見せ、次にどのようなことを仕掛けてくるのか、私たちは警戒のアンテナを張り続ける。
そしておそらく私たちの対岸で包囲の一翼を担当しているのは玄翠であろうことはその特徴的な笠状の帽子や今まで見られていなかった庵の兄妹たちの中で唯一人間に扮した姿を見ておらず、庵のペンダントの暗示であの工事現場の時のように駆けつけてきたのだろう。
「ん〜......」
あたりを見回すストーカーは何を考えているのかさっぱり表情からは読み取れず、その視線はピタッとある方向に固定され、そこをピンと張り出した指先を充て、突如として大きな驚声を上げ始めた。
「あ〜!ちょ!あれ!あれなんだあれ!?」
何を言い出すかと思えば私たちの気をそらせようとする稚拙な小芝居を演じ、誰がこんな見え透いた嘘に騙されるかと私はたかを括っていたが、いざ二人を見てみるとストーカーが指差した方向に意識を奪われてしまっており、ストーカーはその状況を利用し、人間態の玄翠を押し除け、そのまま逃走を開始していた。
「ちょ!あんたたち何してんの!」
「あのやろ!!騙しやがったな!」
「いや、なんで騙されんのよ!とにかく早く追いかけよう!」
このような子供騙しに引っかかってしまうとは.....と二人に呆れを覚えてはいるが、今はそんなことよりもあいつを追いかけることが先決で私は息を荒げながら、二人にある提案をする。
「ねえ!皆で同じように追いかけても埒が明かないから二人とも別々の場所から行ってあいつを挟み撃ちにして!ここから近くに公園もあるからそこに追い詰めよう!」
二人も私の提案に肯首し、二人は途中で分かれている左右の道をそれぞれ行き、私は真っ直ぐにストーカーを追いかける。
「はぁ.....はぁ.....もう逃さないから.....」
私の案が功を奏し、マンション近くにある小さな公園にストーカーを追い詰めることに成功する。
「全くあんたたちもしつこいな〜!いい加減にしてくれよ」
「どの口が言ってんだ!お前が何もしなけりゃ私たちもこんな追いかけっこを有する仕事はしてないんだからな」
全く庵の言う通り。誰のせいで追いかけてるんだと軽い口調のこいつに私も怒りを滲ませる。
「わかった。わかった。もう降参だ。もう追いかけっこはやめよう......」
しかし、その降参は私たちに観念するという意味ではなく、追いかけっこをやめると言う意味であることはすぐに私たちに知らしめられることになった.......




