逃走
「ねえ。そういえばあんたの弟や妹たちは?誰か連れてきてないの?」
「今はこっちに集中しろ」
そう言って、はぐらかされるがもしあのストーカーが木下さんを襲ったり、人質に取ったりしたら私たちだけではとても対処しきれないだろう。見た目は確かに普通の人間だが、その秘めている能力にはどのようなものがあるかは全く想像がつかない。下手に確かめることもできない今の現状では私たちの人手は単純に足りない。
しかし、私はこのようなことに庵が気づかないわけがなく、何か考えがあるのだろうと思い、この場での会話は打ち切り、今はあのストーカーの行動を監視することに終始することに徹する。
もうすぐ木下さんはマンションの前に辿り着く。私たちもその後のストーカーの行動次第で動かなければならない。
木下さんは自らの住んでるマンション......つまり私のマンションである........に到着し、そのままエントランスへと入っていったが、ストーカーはまるで最初から木下さんはいなかったかのようにその場を通り過ぎていき、庵は行くぞと合図を掛け、見失う前にできるだけ奴を捕捉しようと試みようと気づかれないように早足で追いかける。
すると、ストーカーはピタッと道路の途中で立ち止まると突然全速力で走り出し、庵は追うぞ!と後を追い、私もそれに必死になって喰らいつく。
ストーカーの走る速度はそれなりに速いようで私の前を全速力で走っている庵の息もが成り上がっており、庵でさえその状態なのだから、体力がないに等しい私が這々の体になるのも目に見えており、現に足は悲鳴をあげ、息も絶え絶えとなってしまいながらもなんとか追いつこうと走り続けていた。
すると、道の向こう側からも何か人影のようなものがストーカーが走る方向に向かって前進をしているのが見え、しばらくは建物の影に隠れて、よく確認できなかったが、建物の影のベールが剥がされると見たことのある笠のようなものを着た好青年であり、彼と私たちによりストーカーを挟み撃ちにするような形勢が築かれていた。
「はぁ.....はぁ......厄介な奴らだ.......」
え?......私は耳を疑う。それは庵ともう一人いる青年も同じような感情が伺える表情を浮かべている。
それは何か言葉とも取れない言葉をつぶやいたのではなく、はっきりと聞き取れるしっかりとした言葉としての言葉を発したことへの衝撃が私たちの中を駆けずり回っている。
それを呟いた当事者は不敵な笑みを浮かべ、私たちを舐め回すように見つめ続けていた。




