言葉
「ねえ?ほんとに現れんかな?こんなので」
「おいおい。お前もう忘れたのか?玲香も前やっただろ。担当した最初の事件でお前をおと.......敵を誘き寄せるためにやった前例があるからな」
今明確に囮と言いかけ、別の言い方に直し、私は後でキッチリそのお返しをするとして今は取り掛かっている尾行に集中することに意識を傾けていた。
庵の提案により示された作戦は私が最初に接した事件と同じようなものだが、その対象者は少し違い、今回は木下さん自らが誘き寄せるために帰りの夜道を一人で歩くことにさせ、何か怪しい気配を感じれば、すぐに私たちが駆けつけれるように若干の距離をとりながらそのストーカーが来るのを待ち受けることにした。
これは仮に私たちの存在がバレてしまえばそれで計画は一気に狂ってしまうものであり、慎重に慎重を重ねなければいけない息の詰まるような作業である。
私は庵の指示で木下さんと住んでいるマンションが同じであることから可能性としてストーカーから顔を覚えられているというリスクもあるため、黒いキャプリーヌのような帽子を被り、なるべく顔を隠すようにして歩き、庵も私とも極力距離をとりながら、彼女の周りを警戒して回る。
その時、庵は電柱近くの不自然な位置で立ち止まり、私も庵が突然立ち止まった理由に探るべく辺りを見ると私たちが歩いている道とは別方向から誰か木下さんの後ろをついていくように歩いている人物がいることが確認できる。
背丈は170ぐらいの細身の人間の男のような見た目であり、一見その姿だけ見れば普通の人間がストーカー行為を行なっているという解釈となるが、やはりそれなりにこの仕事を続けてきたことによる経験則からなのか何か普通の人間ではないことが私には感じ取れ、私の勘を確かめるために近くの電柱で立ち止まっている庵のもとへと向かう。
「庵。もしかしてあいつがストーカーかな」
「ああ。おそらくそうだ。ただ、何か様子が変だな」
「やっぱり?私もあいつの正体はバケモノのような気がするんだよね......」
「いや、違う。おそらくバケモノはバケモノなんだが、何か今までのやつとは毛色が異なるぞ。まるであの工事現場で襲ってきたあいつみたいだ」
工事現場で私たちを襲ってきたあいつ........。
思い出したくもないが、今でも忘れない。それにあの場にいた庵たちは全く気がついてないが、今回の木下さんの証言とあのストーカーの共通点のようなものが一つだけあることを思い出す。
それは何か言葉のようなものを発しているという今までにはない不気味で不可解な共通点を彼らが持ち合わせていることだった.......。
 




