意外な依頼人
トコトコと手には袋を持ち、3日ぶりに通う職場への道は当たり前ではあるが、全く変わっておらず、僅かな期間通らないだけで懐かしさすらも感じてしまうとは.......。
私もすっかりあいつの職場で社畜精神を植え付けられてしまったのかもしれないが、不思議と出版社の時に比べれば格段にやりがいを覚えており、夢を持って入った職場と夢を砕かれた後に入った職場にも関わらず全く皮肉な結果になってしまったものだ。
それにこの3日間でもしかしたら、庵の方でも何か新たな事件に遭遇しているかもしれないし、私も色々とここ3日間の体験談のようなものを話したい気持ちでいっぱいだった。
相変わらずデカデカと聳え立つあいつの自宅のインターホンを押すと無言で開かれ、私は敷地内に入り、すでに鍵の開けられているドアを開ける。
「よっ。久しぶりだな」
「うん。久しぶり」
庵はテレビをつけながら、個人用のソファーで体勢を崩しており、その庵のいつものスタイルに私は安心感を覚えていた。
「あ.....そうだ!これ」
「ん?なんだ?」
私は持ってきていた庵へのプレゼントが入った袋を手渡す。いきなりのことで庵も動転状態だったが、まさかお前からプレゼントをもらう日が来るとはな。といつも通りのチクチク言葉を私に浴びせてくる。
「何々?アイマッサージャー?目のマッサージ機か?」
「うん。庵って結構資料とかスマホとかも見て目の疲労がすごいだろうからそれ買ってみたの」
「なるほどな。まあ....そのなんだ.....ありがとな。わざわざ」
いつもは生意気で口達者で傲慢な態度を見せる庵の放つ感謝に私も喜びを感じ、どういたしまして。とその言葉に相槌を放つ。
「おお。ぴったりだな。じゃあ早速今日の夜ぐらいから使うか」
箱からガサガサと取り出し、サイズの確認などをする庵を横目に固定電話が鳴り響き、私が出ようとしたが、庵からお前と座っておけというジェスチャーがあり、庵はその足で電話の方へと向かっていく。
私は少し散乱した箱などを片付る作業をしていると庵はもう電話を終えたようで疾風の速さでリビングに戻り、どうやらもうすぐ今日の依頼人が来る予定だったようで私はいきなりの仕事の到来に少し驚愕するが、その驚きは次に庵から告げられる依頼人の名前を聞いたことで私がさっきまで感じていた驚きは微々たるものであることを思い知らされることになる。
「今日の依頼人は誰なの?」
「今日は.....木下友梨って人だな」
「へぇ〜木下友.........はぁ〜!?木下友梨!?」
私の驚声は庵の自宅に雷鳴の如く轟き、私は今にも腰が抜けそうなほどの衝撃が体を巡り巡りっていた......




