持主とのはちあわせ
まただ.......またあの気配を感じる。全身を鳥肌を伴う悪寒が電流のように伝わる感覚があり、私は恐怖からツカツカと靴の音を早め、自分の住むマンションへと着き、エントランスの鍵を開け、あのストーカーのような奴が入ってこないことを願いながら、素早く中へと入っていく。
すると、すでにエントランスではエレベーターを待っている女性がおり、私は少しホッとした気分になり、肩の荷がそっと降りる感覚に包まれる。
その女性は私に気付いたのか後ろを振り返り、こんばんは〜と軽い挨拶と会釈を向けてくれ、私も簡素な挨拶を返す。
「あれ?......あなたどこかで........」
私が挨拶を終えると女性は私の顔を見るや何か不思議そうな表情を浮かべ、どうやら私に見覚えがあるような感じであった。
「あの、多分私たち会うのは初めてだと思うんですけど」
このマンションはそれなりに階数や部屋数もあり、誰がどこに住んでいるかなんてのは全くわからないブラックボックスであり、それはこのマンションに限った話ではなく、現代社会では特段珍しくもない。
私の記憶が正しければ彼女には一度も会ったことはないような気がするが、どうやら彼女には私に心当たりがあるようだった。
「えっと......申し訳ないですが、あなたのお名前は?」
彼女は私の名前を尋ねてきたため、素直に自分のフルネームを彼女に明かす。
「え?......木下友梨ですけど......」
すると彼女は私の名前を聞いた途端目を驚くほど丸め、あっー!!!とエントランスに響き渡るような声でその驚きをさらに具体化させていた。
「ちょ!......大きい声出さないでください!誰もいないとはいえ、少し迷惑ですよ.....」
「あ.....ごめんなさい!でも、あなたが木下さんだったなんて!通りで見たことあるわけだ!」
「テンション上がってるとこすいませんけど、あなたとお会いしたことありましたっけ?私のことを知ってる風の反応ですけど」
いくら記憶を遡っても覚えがなく、私が覚えてないだけにしても、彼女が私をただすれ違ったり、通学の最中に私を見かけたことがある程度ならこのようなバカ騒ぎのような驚き方はしないだろう。私はその理由が無性に気になる。
「いや、会ったことは全然ないんだけど、実は私が今朝駅で拾った落し物の中にある学生証であなたの名前と写真を見たもんだからね」
「学生証?.......!!」
私はまさかと思い、肩を担いでいる鞄の中をガサゴソとまるで空き巣のように粗くある物を探すが、一向に見つからない。
「あの、その落し物のやつって、茶色い定期入みたいなものじゃありませんでしたか?」
「そうでした!やっぱりあの木下さんだったんだ!」
彼女もやっと腑に落ちたしたような表情を見せ、私の定期入は駅の交番に届けておいたから明日取りに行くことを勧められ、私は拾ってくれた彼女に感謝をする。
エレベーターもちょうど到着し、私たちはどうやら同じ階に住んでいたようでボタンを押し、エレベーターは私たちを押し上げ、ゆっくりと進んでいった。




