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厄災

私はこれ以上考えても埒が明かないと言い聞かせ、ひとまず頭を冷やすべく、洗面所の方へと足を運んでいった。


それにしても今更思い返されるのは先生の秘密の根源である元教え子の女性とは一体誰なのだろうか........。


先生はその人の名前を一切口を出さず、私も先生に師事してそれなりの時間を経てはいるが、そのような人物は皆目見当もつかないのである。


「その人は一体、どこへ行ってしまったんだろうか......」


私は秘密を握った後の厄災などで彼女の正体について関心を示す余裕はなかったが、ここに来て嵐の前の静けさのような平穏からその疑問がフワッとたんぽぽの綿毛のように飛来してきたのである。


名前、生い立ち、行方などは黒い霧の中へと消えてしまい、私がわかっているのはその彼女が関わっているとされる先生から請け負ったその秘密のみだ。


そして彼女が先生や私に降り注ぐ厄災に何かしらの影響を及ぼしていることも容易に推測できるのである。

もしかしたら、私が殺めてしまったあのジャーナリストの彼女も元教え子のことについて取材を通じて何か情報を握っていた可能性も今思い返してみれば十分に考えられる。

もうこの世にいないからその話を聞くことも叶わないのであるが........


「はぁ......今は考えるだけ無駄か......」


私はひとまず洗面所へと向かい、少しやつれ気味になっている顔を水で洗い流し、ある程度はその現実をカモフラージュすることに成功はしていた。


「........ジマ......」


「!!!!」


「.......キタ........ジマ........」


「誰だ!!!」


突然、私の後ろから不気味な声がこちらに向けて囁かれる。それは消え入るような声でありながらもはっきりと私の名字である北嶋とどこからか呼び続けている。


「誰だ!......どこにいる!........」


部屋中を歩き回っても誰の姿も確認できない。ベランダの方をガラス越しから覗いてもただ真っ暗闇の世界が広がっているのみでやはり誰もいないようである。


私はベランダに飛び出し、それなりの高さがあるベランダの柵の外も覗くが、やはり誰の姿も確認できないでいる。


「はぁ.......もしかしたら疲れから幻聴でも聞こえるようになったのかもな」


私はそう言い聞かせ、ベランダから部屋の中へと戻ろうとする。


「!!!」


バジャー!!!っと大きな水飛沫の音がする。ベランダに設置されている露天風呂からの音だろうなと直感的に判断できたが、私は何者かに顔や体を抑えられ、その露天風呂の中へと引き摺り込まれる。


まずい......私は.....このまま死ぬのは嫌だ......


最後に頭の中にそのような感情が芽生えたあとからの記憶はなく、ただただ深い水の中へと自分の体が沈んでいくのを感じることしかできなくなっていた......










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