雫の剣
「よし。そろそろ出るぞ」
「ok〜!兄さん!」
昨晩の襲撃から24時間が経過し、また昨晩と同じような夜の周期が包み、私たちは万引き犯であるバケモノを討伐するべく行動を開始していた。
おそらく敵の傾向を見るに夜の時間帯での万引きの犯行を犯してるようで次の被害が出る前に我々で近辺を捜索し、他の弟や妹たちと同じようにレギオにも備えられている敵の探知機能のような能力を利用しながら周辺を探索することにした。
とは言ってもレギオの探知能力も万能ではなく、その能力の網に引っかかる確率は5〜6割であり、昨晩の敵の動きを見るに残りの5〜4割の穴を掻い潜る能力を持っていることは間違い無いだろう。ただ、だからと言ってみすみす敵を野放しにする行為をするわけにはいかず、とにかくその5〜6割の中に敵が入ることを願いながらも被害のあった区域を重点的に回り、敵を捕捉しようとする。
「どうだ?あいつの気配みたいなのは感じるか?」
「いや、全然。風の音が聞こえてくるぐらい」
「そうか。まあ、そっちの方が本来望ましいのかもしれんな」
私は自分で発した言葉ながら、いつになればあのバケモノたちとの戦いは終わりを告げるのだろうかという考えがふと私の頭に現れる。思えばもう彼らとの戦いを始めて、3年は経とうとしているだろう。それにも関わらず彼らの正体に関しては未だに何一つ掴めていないのが現状だ。
「そうだね。でも、今はとにかくこの騒動を鎮めないと。それが俺たちに与えられた役目でもあるんだし」
レギオの言葉は全く的を得た発言で私もその言葉に襟を正さなければという思いを抱かせるのには十分であった。
「兄さん、そろそろ別の場所も探したほうがいいかもね。もしかしたらもうここには別の場所にあいつも逃げてるかもしれないし」
「確かにそうだな......よし。他の場所もぼちぼちあたってみるか」
私たちは一向に見つからない敵を求めて他に潜伏している可能性のある区域へと移動を開始することにした。
「兄さん、ちょっと待って......」
レギオは突如その場で立ち止まり、その鋭い眼光を周囲に向けながら、ある一点でその視点を止める。
「兄さん、多分あそこにあいつがいる気がする。ちょっと行ってくるよ」
レギオはそう言い残し、走り去ろうとする。私は慌てて急ぐレギオを止め、これを持っていけ!と首に掛けていた
ペンダントを投げ、レギオもそれを難なく手に取る。
「何か困ったらそれを使え!必ずお前の助けになってくれるはずだ!」
レギオはわかったと言葉には発さなかったが、深い頷きでその場から颯爽と離れていく。
◆◇◆◇
俺は兄さんと別れた後、あのバケモノの気配を微かに感じた広場へと急行する。
近くには小さな川があり、その流れのせせらぎがゆったりと響いているが、それと反比例するように俺の心は騒がしく荒れ狂っている。
奴はどこだ......。どこにいる.......。
確かにこの近くにいることは間違いはないはずだ。
しかし、その透明化能力のようなものを駆使されているおかげで一切その姿は感知できない。
敵もおそらく俺を一発で仕留めたいとする願望からいつも以上に息を潜め、奇襲するタイミングを狙っているのだろう。
俺は瞼をそっと閉じる。ドルジから教わった耳を澄ませ、その標的の微量な音も逃さないよう意識を集中させる。
心臓の鼓動は早まり、バケモノを倒す一瞬を逃すまいと血脈が走り続ける......。
そして俺の背後で何やら気配が感じられる。ゆっくりと間合いを詰めてきており、俺もそれに気づかないふりをし、射程圏内に誘き寄せる。
今だ!!!
俺の合図に呼応するように兄さんが預けてくれた雫型のペンダントが変化し、俺の腕には瞬時に剣が現れ、その剣は背後から襲撃してきたバケモノの腹のあたりに一撃を加えた。
「ギェェェェ!!」
その一撃を受けたバケモノはその場で金切り声を上げながら、粒子となりそのまま消滅していった......。