不審な男
私たちはホテルの部屋に到着し、近くの観光名所的なところをぶらぶらと回っているとすっかりと日が暮れてしまい、部屋に戻ると凛との事前の約束であった温泉へと向かうべく、私たちはタオルや着替えなど諸々の用意を完了すると温泉のある下の階へと移動を開始した。
「ねえ。凛。温泉入り終わったらさ。お茶とか買いに行っていいかな?すぐ終わるし、凛は先に部屋に戻ってていいよ」
「そう?私も着いて行こうか?」
「いや。大丈夫だよ。今日は結構動いたし、凛は部屋で先にゆっくりしてて」
「うん。なら先に戻ってるね」
私たちは温泉を出た後の予定を話し合い、そうこうしているといつのまにか温泉の前まで辿り着いていた。
「よし。じゃあ、入ろっか!」
この温泉を楽しみにしていた凛は当然ながら、高揚しており、私もその熱気が原動力のように伝わった影響で私の中のボルテージが上がっていくようであり、その温泉の中へと入っていった。
◆◇◆◇
「はぁ〜!めちゃくちゃよかった〜!また来たいな〜」
温泉を堪能し、すっかり意気揚々となっている凛に私もその意見に同調し、凛との意見を共有する。
「玲香はこの後、飲み物買いに行くんだっけ?」
「そうそう。凛は先に部屋に戻ってていいよ」
「ok〜!じゃあ、また後で!って言ってもすぐだけど」
「うん!じゃあ」
私は凛と一旦離れ、ホテル内に設置されているコンビニへと急ぎ、お茶などを調達する用事をすぐに済ませようとする。
「!!」
その時、私の前からもメガネをかけた男性と肩がぶつかってしまい、二人ともその場に倒れ込んでしまった。
「あ!すいません!!大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」
私は謝罪と共にどこかに怪我を負わせていないかの確認を取ろうとする。
「いえ、大丈夫ですので.......」
その男性は衝撃で少し傾いてしまったメガネを元に戻すとそのまま何事もなかったかのように疾風のように去っていってしまった......。
何あれ.....感じ悪......
いくら前を充分に確認していない過失が私にあったからと言って、あの無愛想ぶりを見せつけられた私は苛立つ気持ちを心に引っ掛けながらコンビニへと向かい、私が歩くことにより、際立って聞こえるタイルの音はいかに自分が苛立ちを有しているかの信号となり、その怒りを鎮めることを今は意識するように私は切り替えた。
◆◇◆◇
ピピッ
ガチャ!
「あ。おかえり〜.....って、どうしたの?玲香。なんかあった?」
どうやら怒りが顔にあからさまに出てしまっていたようで私は凛にその原因となった一部始終を話した。
「うわぁ〜。かなり感じ悪いじゃん。災難だったね」
「ほんとだよ〜!せっかく温泉で健やかな気分だったのに」
「まあ、まだ明日もあるんだし、今日はそろそろ寝て忘れよ!」
凛の言う通り、いつまでもあいつのことを考えて楽しい旅行を台無しにさせるわけにはいかない。私はそう気持ちを切り替えて、あいつを忘れる他に楽しみな明日に備えて今日は就寝することを選択した。




