謎の被害者
「こちらです」
マンションの一室の中に案内されるとそこには無惨にも首筋を切り刻まれた女性の死体が倒れ込んでおり、部屋の中もかなり物色された跡が見受けられる。
「酷いもんですね」
こう話すのは私と一緒に仕事をしてもう何年もなる石原くん。熱血漢で仕事熱心ではあるがそれがたまに空回る時もあるが、それでも良き部下であることに変わりはない。
そして今こう心の中で呟いている私は古賀毅。
こうして都内で頻発している事件を追いながら、近年増え続けている奇怪な事件などは先生こと安倍庵の力を借りて解決を試みている。今回の事件はおそらく前者の一般の殺人事件であろうことは容易に推測できる。
「ん?......」
私はあることに気づく。寝室の方に置かれているテーブルの端の方に何か長方形のものが長らく置かれていたようにその部分だけ綺麗に埃が一切被っていない。
「どうしました?」
石原くんがひょこっと顔を覗かせる。
「いや、少し気になっただけだ。あの女性の身元は?」
「はい。名前は田中好子。年齢は42歳で都内の大学で生物学の助教をしていた人物でして、かなり将来を期待されていた研究者だったようです」
そのような人物が今ではこうしてただ冷たさだけを内包した魂のない肉体に変わり果ててしまうとは......。
いつまで刑事をやってもこの被害者の末路のモヤモヤは晴れることはない。
「大学内でも評判は良さそうですし、特に恨みを買ってるとかいうのもなさそうですね」
「そうか.....」
私たちは引き続き、彼女の部屋の中の捜査を続けることにした.......
◆◇◆◇
「凛〜!!ごめん!!待った?」
「めちゃくちゃ待ったよ」
「え!?嘘!ごめん!怒ってる?」
「うん。怒ってる」
「ごめん.....」
「嘘だって!全然怒ってないよ!ほら。いこ!」
私は凛が怒っていると知るとせっかくの旅行前だというのに台無しにしてしまった自分に後悔したが、どうやら私を揶揄うための笑えない凛の冗談だったようで、逆に私がバカ!というように怒る逆転の状況となっていた。
久々の長期休暇はたまたま凛との休みとも重なり、二人でどこか遠くに旅行に行くことを計画しており、事前に取っておいた新幹線のチケットを手に改札へと向かう。
「まだ結構時間あるからさ。新幹線で食べる用の駅弁買ってかない?」
「うん!そうしよ」
凛の提案により改札内にある売店で新幹線が来るまでの間に私たちは駅弁を買うことにし、良さげな売店がないかと二人で歩いて行く。
私たちは駅弁やその他諸々を改札内の売店で買っているともう少しで到着する時間となり、新幹線のホームに急いで向かい、新幹線が来るのを今か今かと待ち侘びていた。




