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雫の奇跡

紬さんのペンダントにより庵に何者かの魔の手が迫っていることを暗示し、私たちはそれから逃れるために人影のない工事現場のドラム缶に身を隠し、逃れようとしていた。

しかし、一向にその謎の追手の気配は感じられず、今の今まで何も起こってはいなかった。


「おかしい.....さっきまでペンダントが伝えてくれてたのにな.....」


どうやら暗示もすっかり途切れてしまったようで私はやっぱり思い過ごしだったのかと決めつけ、ドラム缶からひと足先に身を起こそうとする。


「........おい!しゃがめ!」


庵の怒号にも似た声に驚き、反射的に身を屈めた私の目の前では突然、ドラム缶が上下に真っ二つに斬られ、庵の言葉のおかげで私はその難をギリギリで回避する。


「逃げるぞ!」


私の腕をすぐに掴み、庵はその場から走り去り、私も身を委ねるように庵の引っ張る方向へと進む。


「あれに隠れるぞ!」


庵はちょうどここからは死角になるような貨物自動車を見つけ、運良く扉は施錠がされておらず、その中に入り、なんとかやり過ごそうと企てる。


「ねえ。もしここで見つかったらどうすんの?逃げ場ないじゃん」


「大丈夫だ。ここに隠れろってこのペンダントが教えてくれたからな」


またしても私たちを助けたのはこのペンダントだ。結局誰かに追われている暗示も真実だったと証明され、ペンダントの暗示の信憑性は疑いようのないものとなっていた。


しかし、一体なぜこのペンダントは庵にこれから起こることの暗示を正確に伝えることができたのだろう.......。


「とにかく、今はなるべく音を立てないようにしろ。それでやり過ごすんだ」


確かに今はこの緊迫した事態をいかに乗り切るかが先であり、庵のいうようにこの狭い貨物自動車の座席に各々隠れ、過ぎ去るのを待つしかなかった。


だけれど、このままじっとここでしていても埒があかない。おそらくあの謎の人物は明確な殺意を持って私たちに迫っていることは間違いなく、この焦眉を除去するためには庵の兄妹たちの力が必要だ。


しかし、それには難点がある。電話などで救援を求めるにしても、今話し声や音を立てれば間違いなくあいつに察知され、さらに逃げるのは困難となり、仮に兄妹たちに伝わったとしてもいつまでに到着できるかは未知数だ。


「.........」


庵ならこの状況を打破する方策を考えているかもしれないと彼の方を見るが、体を座席の下に丸め、息を極力潜めながら、ペンダントを握る様子が見えるのみで何か具体的行動に出ているわけではなかった。


袋小路に追い詰められるように身動きが取れず、ましてや敵の動きや助けも求められない今の現状では疲労の極限状態も時間の問題となる。


「........」


しかし、一向に何か動きがある気配はなく、私は一刻も早くこの肩身の狭いスペースから抜け出したいと思い、体を少し動かそうとしたその時、何か庵が隠れている座席の方の窓ガラスにモヤのようなものがかかっているのがわかり、私は咄嗟に庵を私の方へと思いっきり引き寄せる。


ガシャーン!!!と窓ガラスは勢いよく割れ、黒の覆面を被り、その間から覗く鋭い眼光で睥睨し、その手に持つ光の剣のようなものを私たちに振り翳そうとする。


「逃げるよ!」


私はドアを開け、今度は私が庵を引っ張るように外へと走り続ける。


「!!」


しかし、瞬時に私たちの前にその覆面に黒服を纏った人物は現れ、逃げることは不可能であることを無言ながら示すように間合いを詰めていく。


守らなきゃ......庵を.......。


私は庵に覆い被さり、なんとかこの子だけでも守り通すことを最優先させる。紬さんとそうやって約束したから.....。


キーン!!!


その時、何か金属音のようなものが鳴り、起き上がってみるとそこには何やら二つの影のようなものが見える。


「まさか......ほんとに私の願いが通じたのか.....」


私の体の下からヒョコッと顔を出す庵はそう呟く。


よく見るとその影の正体は紛れもなく庵の兄妹である玄翠とサラであることがわかる。


それはまたしてもこのペンダントがもたらした奇跡であったことはまだ私は知っていなかった......









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