紬さんとの会話
紬さんが言った私たちの関係について安心したと発したことは一体どういう意味なのだろうか......。
「あの子があんなに気を使わずに本音で原田さんに接しているのを見て、本当に心を許してるんだと思うとつい安心してしまったんです」
どうやらさっきの私と庵の痴話喧嘩を見て、それが私にあいつが心を許しているというふうに映ったらしい。私はとんだ誤謬であると感じていたが、紬さんはさらに私にある質問を投げかける。
「原田さんは庵からここでの話は聞いてます?」
「まあ、ある程度は紬さんの話とかの若干の話はしましたけど、でもあいつの過去の話まではそんなに詳しくは.....」
「そうですか........」
そう一言漏らす紬さんに何か私は急に庵の過去のことについて詳細を聞き出したいという我儘のようなものに近い形で紬さんにそのことを尋ねた。
「紬さん.....庵って昔はどんな子だったんです?」
紬さんは突然の私の我儘にも親切に答えてくれ、今まであまり触れることのなかったあいつの過去について触れることになった。
「実はあの子、赤ちゃんポストに入れられてその後こっちに預けられてきたんです。預けた人もましてやご両親も誰だか、今でもわかりません」
最初に語られたのは庵が身寄りのない孤児の一人でその受け入れ先がこの児童養護施設であったということだ。
あいつにもそんな壮絶な過去があったなんて.....
「最初は全く私にも他の同年代の子達にも全く心を開かなくて、いつも部屋に閉じこもってばかりいたんです。1日に二言会話できれば御の字だったぐらいですから」
紬さんが言った本音を曝け出すと言った趣旨がある程度は理解できた気がする。その話では今の庵とはあまりに乖離した姿が情景として映り出されているからである。
「でも、いつだったかしら.....段々とあの子も明るさとかそう言ったものを私に時折見せてくれるようになってくれて.....まるで誰か新しい大切な人みたいなのを見つけたように私はその時あの子から感じてたんですけど」
新しい大切な人......私は瞬時にあいつの兄妹たちが思い浮かぶ。そういえば出会いすらもまともに聞いたことはなかった気がする。おそらくこの時にどこかで出会っていたんだろうな.....と私は解釈していた。
「ここに来て数年が経った頃に庵は当時近所で話題になってた怪異事件みたいなのを解決することに成功したんです....実は私の父もその怪異の一つの悪夢に魘されてたのをあの子のおかげで治ったんです」
おそらくそれが今につながるあいつの始まりの事件ってことだろう。紬さんによるとどうやら最初はあいつが解決すると言ったことを嘲笑したらしいが、実際に解決されるとそれは一気に賞賛へと変わったらしい。
「そこからあの子もそれを仕事にして自分を活かしたいって言い出して、ある程度仕事が軌道に乗り始めてからそろそろ自立をするって言い出して私や父の周旋とかで自分の家をしっかり持って、今に繋がってるんです」
私とあいつが出会う前にはそのような前史があったことなんてあいつとそれなりに絡んできたけど全然知らなかったな.....。それに紬さんがいうには庵は今でもこの施設に寄付を続けているらしく、ハロウィンやクリスマスなどの時期が近づくと暇があれば足を運んで今のように子供達と戯れているらしい。
「あの子、さっきみたいに少し口調は強いところはありますけど、根はほんとにいい子で誰か人の助けになりたいとか困っている人の支えになりたいって心の底から思ってる子なんですか。自分が関わった人は誰も不幸にはしたくないなんて言ってた時もありましたから」
そう語る紬さんは続けて私にあるお願いと称するものを伝えてくる。
「原田さん。もしかしたらどこかご迷惑をかけたりすることもあるかもしれませんが、どうかこれからもあの子をよろしくお願いします」
そう言って私に頭を深々と下げると私は慌てて彼女の頭を上げさせ、私はその姿勢に胸を打たれ、その願いを聞き入れることを決意する。
「わかりました。任せておいてください。それに私もあいつがいたから今の私がありますから。だから、何があっても庵を支えますよ」
これは私の偽らざる本心だ。路頭に迷いかけた私は庵のおかげで今生きていけている。庵は庵にとっての恩人の紬さんのように私にとっては庵が恩人である。
私は紬さんの願いにより改めてその気持ちとあいつを支えていくという決意を固めさせるのには十分であった。
「紬さーん!来てきて!お姉ちゃんも!」
すると、遊び途中であった小学低学年ほどの男の子が私たち二人を遊びの輪に加えるべく誘い出し、私たちを引っ張り誘導するその子に私たちは顔を見合い、くすくすと笑いを見せながら、その遊びの輪へと突入していった。
 




