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ある人

空は満天の快晴を彩り、世界を横断するこの春の予告を告げる柔らかい風は冬を終え、もう時期春が到来しそうなことを予見させるものであり、私はその空気をスーッと吸い込みながら、いつも通りの職場へとカツカツと慣れた足取で進んでいく。


「あれ?」


庵の家はすぐ目の前に見えるが、そこにはすでに庵が外に出ており、服装を見る感じ、少し出てきたというよりもどこかに出かけるような雰囲気を醸し出している。


「おーい!庵!そんな服装してどっかいくの?」


私は少し声を大にして庵の名を呼ぶと想像以上の驚きを私に見せ、青天の霹靂であったかのような表情を見せ、私もそれに感染するように困惑する。


「なんでいんだ?」


「は?いや、だって今日出勤日だし.....」


「お前、私が送った勤務では明日が出勤日だったはずだがな」


私は慌てて、カバンにしまっているスマホを取り出し、数日前に送られた今月の勤務表を確認する。


「あ......」


よく見ると正確な出勤日は明日で私はここで大きな過失をしてしまったことに気づいた。


「あぁ〜!やってしまった〜!せっかくの休みだったのに.....ミスった〜.......」


「たく、まあ、いいや。特例として明日と今日入れ替えてやるよ」


「嘘!やっぱりわかってるね〜!庵くんは〜」


私は庵にありったけの抱擁と頭を撫で、感謝を過大に表現し、庵は相変わらずの冷徹な目つきを見せながら、機械的に無言で抱擁を取り払う。


「はぁ.....だが、良い機会だ。お前は合わせたことなかったからな。とりあえず今日は私に着いてこい」


合わせたことがない?もしかして今日は誰かに会う日だったのかな.....だったら、私はそんな庵の時間を邪魔してしまったことへの罪意識を今更ながら感じ始める。


「今日、誰かに会うの?だったらごめん......それなのに私のミスで邪魔しちゃって.....」


「やめろ。畏まるな。それにお前にはいずれ合わせようと思ってた人だ。その時期が今日にずれ込んだってだけだ。そう気にするな」


いくぞ。と庵は目的の場所へと向かうため私に着いてくるように指示をする。でも、庵が会いにいく人ってどんな人だろう......それに私もいずれ会う予定だった人ってことは.......


「ねえ。もしかしてその人って庵のご両親とかだったりするの?」


今まで庵と多くの時間を共にしたが、確かに家族といえる兄妹たちはいるが、庵の実際のお父さんやお母さんは一度も見かけたことがない。


「まあ、それに近しい人ではある。着いてみればすぐにわかる」


近しい人か。でも、一体どんな人なんだろ。


「その人ってどんな人なの?」


庵は間髪入れずにその人のことを語り始め、堰を切ったようにその言葉は止まるところを知らない。


「その人はいわば私の母親のような人でな。私がこうして自立できているのもその人のおかげだ。その人のお父さんも私のことを気にかけてくれて、今の家に住めているのも二人の斡旋があってのことだ。私が人生で最も感謝して、そして尊敬してやまない人だよ」


庵がここまで人を誉めることは兄妹に対しても中々見られるものではない。それは相対的にその人の凄さというかある種の偉大さを庵の言葉の節々から汲み取ることができる。


私たちはそこに向かうため、バスを待ち、1時間半ほどでその場所へと到着するらしい。

庵の話を聞いていると未だ会っていないにも関わらず、すでに言葉のイメージだけでも言うなれば聖母と言ってしまっても差し支えないような人であることが伺え、私も迫っている対面に楽しみを覚える気持ちが湧いてきていた。


「そろそろだな」


庵はスマホの時間を覗き、最寄駅へ向かうバスが到着しそうなことを確認し、顔をあげるとそのバスはすぐそこへと車輪の音を立てながらこちらへと進むのが見えていた。










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