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槍と弓矢

まずいな......水中の中でこのバケモノと対峙している私勘十郎は今バケモノの放つ蔓のようなもので手の自由を奪われ、それになんとか抗うも私の周りにも網目状に蔓が張り巡らされていた。


上を見上げると上空から浴びせられていた陽の光は全くと言っていいほど降り注がず、大人しさを発揮し、兄との約束の時刻まで後少しであるという切迫感も同時に差し迫っていた。


蔓状のものがまるで陣を構えるようにバケモノを囲いながら、守りの姿勢を見せ、切っても切っても本陣へは辿り着けず、これでは埒が明かない。


兄はもしかすると私の帰りが遅いことに疑問を持って、ドルジを伴って私を援護してくれるかもしれない........。

このような難局に置かれ、私はそのような甘い希望的観測を抱くに至り、打開策が見当たらない状況での心の未熟さが垣間見えてしまっている自分に嫌気が差しながらも、その時はただ、ただ兄を頼る一人の弟になってしまっていた。


徐々に私を囲う陣の包囲網は狭まり、このまま無策のままでは何の収穫もないまま敗北を迎えてしまう。

私の心はこの濁り切った湖の巨水と大して変わりないもやがかかってしまっていた。切り抜ける策を考えねばと焦りは募るばかりで反比例のようにそれが私の思考を拘束してしまっていた。


ん?......この音は.....


その時、私の耳にはヒューッという独特の鳴りを奏でるものが響き渡り、私はそれがなんなのかはすぐに理解が働いた。


あれは.....ドルジの鏑矢!


おそらく、兄がドルジを伴って、何か私にメッセージを送っている。それを瞬時に読み取ることができた。

約束の時間はまもなく迫っているであろう。兄は私にドルジとの共闘を呼びかけているはずだ。


ならば、私も最大出力で力を使わなければな。


私は自らの拳に力を入れ込み、体を徘徊する蔓を一挙に引きちぎり、十文字槍を体を回転させながらバケモノを守る陣に見舞い、バケモノとの間合いを瞬時に詰める。

予想外であったのか、バケモノは一瞬よろめく。時間を浪費すれば再び蔓の餌食になってしまう。私はそれをすかさず、十文字槍を体に刺し、胴を持ち上げるようにして勢いよく水面へとそのバケモノの体を投げ出す。

空中ならば、やつも蔓での抵抗はもうできないだろう。

あとはドルジの弓の腕に全てをかけるのみだった。








◆◇◆◇


勘十郎に私たちの意図は伝わっているのか......。

私の不安は北国の豪雪のように積もるばかりだった。

水中での戦闘中で鏑矢の音も正確に聞き取れないという可能性や勘十郎が現在時刻を正確に掴めているのか定かではないだが、不確定要素の中で直接援護を加えれば返って不利益を勘十郎に与えてしまう可能性は高く、私は勘十郎の体内時計とドルジの鏑矢の音に全てを託していた。


「兄者!なんか水中から上がってくるよ」


「なに?」


ドルジが何かを察知し、私も水中の方へと視線を落とす。

ドルジもそれを感じ取るとほぼ同時に弓を構え、その標的が来るのを今か今かと待ち構えている。


よかった......勘十郎には私たちの真意が伝わったか......


私はこの事実だけでもホッと胸を撫で下ろすようなものがあった。しかし、まだ終わったわけではない。最後のドルジが射なければ事件の解決には至らない。


激しい水飛沫と共に全身を藻に包まれた異形の存在が顔を表し、すぐに人造湖の周りを囲う山々の頂に到達してしまうほどに素早く上空へと飛び立っている。


弓を引き絞るドルジはそのタイミングを伺い続け、その矢は迷いなく瞬時に引かれ、一切のブレなく一直線にしてそのバケモノへと向かい、矢は物の見事に的を射てバケモノは粒子のように音もなくその場で散り散りに消え、あたりにその粒子は雨粒のように降り注いでいた。







◆◇◆◇


「刑事さん、先生方本日は本当にありがとうございました」


頭を下げる川村さんは事件解決によりダムを立ち去ろうとする私たちに礼を言いながら、見送りを受けながら私たちは古賀さんの車に乗り込み、帰路に着いていた。


「まさか。1日で解決してしまうとは。流石先生たちのお力は素晴らしいですな!私は数日は覚悟してましたからね」


私の出る幕はありませんでしたな!と呑気な古賀さんの笑い声には全くこの人は.....といういつもの呑気具合への呆れもあるが、勘十郎とドルジのおかげで1日で解決できたことはまさに二人の偉業と言っていい。


後部座席に座る二人は疲れ切ったのか爆睡中であり、私は一人古賀さんと談笑をしながら自宅へとひたすらに車は進み続けていた。









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