二人は兄弟!?
まだ状況がはっきりと理解できない.....
あの恐ろしいオーラのようなものを感じる魔物が庵の前だと表情を崩して一人の青年のような雰囲気すらも感じる
「てか、兄さんさっきまでどこいたの?」
「ん?ああ。向こうのドラム缶あるだろ?あそこに隠れてた」
んあ?.....兄さん.....?なんでこんな年下に見えるこいつを
兄さん呼ばわり?次から次へと出てくる情報の多さに
私は目がまわるような思いをしていた。
「もしかしてこの人が言ってた新しく兄さんのところで働く人?」
「そうだ。名前は原田玲香」
魔物は私のことを聞き、私の方にクルッと体を向けると
よろしくお願いします!と言いながら頭を下げ、私も反射的にこちらこそと頭を下げた。見た目に反して意外と礼儀正しいな。
「じゃあ。姉さんと呼ばせてもらいますね!俺の名前は
レギオって言うんで好きに呼んでください!」
ハキハキと喋るその姿はまさにそこら辺にいる中高生たちと全く同じだ。さっきまでの魔物のイメージとは全然違う
「え、こいつのこと兄さんって呼んでるけど、まさか実の兄弟だったりする?」
あまりの風貌の違いさや兄と呼ばれている庵の方が明らかに年下なことはさておき、普通の人間と魔物が兄弟なんてことが果たしてあったりするのかな?
「いや、義理のな。本当の兄弟ではねえよ」
あ.....義理のか....義理だったとしても良く兄弟関係になれたもんだなと思っている私を差し置き、庵は話を続ける
「あのバケモノがどういう因果関係でああ言ったことをするのか調べようと思ったが、もうお前が倒したのなら調べる必要もないな」
もうあのバケモノの原形はどこにもない。あれほどの人が被害を受け、私もその対象になったということはやっぱり
無差別的なものだったのかな.....。
「とりあえず、一旦帰るか。ここに長居しても仕方ないしな。玲香、お前もとりあえず今からうちにこい」
いや、私疲れたしそろそろ家に帰りたいと言いたいところだったが、もしかしたら残業代をもらえるかもしれないという淡い期待を膨らませてとりあえず行くことにした。
それにあのバケモノとか魔物....じゃなくてレギオについても色々聞いておきたいし
「レギオを労う意味でここに来る前にデリバリーでピザ頼んだいたから早めに帰るぞ」
こいつ....私が苦労して追われてた時に呑気にデリバリーなんか頼みやがって!まあ、ちょうど夜ご飯も食べてないし
今日のところは許してやるか。
〜庵の自宅〜
私たちは庵の自宅に入り、届いたデリバリーのピザを広げ、各々に配られた皿に移して食べ始めた。
最近あまり食べていなかったピザを食べ、空腹を満たしながら、私はペロッとピザの一切れを食べ、次の一切れを皿に移した。
「お前食うの早いな。あんまり食いすぎて太んなよ」
黙っとけガキ。という思いで庵を睨みながら私は食事を続ける。
「レギオも遠慮せずに食べろよ。お前のために買ったんだからな。こいつにほとんど食べられちゃたまらんからな」
私は気にせず食べ続けていたが、そういえばバケモノやレギオのことについて全然聞いていなかった。
「ねえ。さっきあったあの女のバケモノ、あれ一体なんなの?庵たちは何か知ってるの?」
すると庵は少し眉間にシワを寄せ、小難しそうな表情を浮かべた後に少し息を吐いて私に説明し出した。
「はっきり言って、あのバケモノのようなやつが出たのが今回が初めてでは決してない。私はレギオや他の弟や妹たちと一緒に戦ってはきたが、奴らの根源がどこにあるのかまではまだ分かりかねる」
その口ぶりからして一回や二回対峙しただけじゃなくて
もう何十回と戦いを重ねてきても尚わからない相手。
私もこれからそんな相手にこれから私も向き合わなければならない......
だけど、ここで仕事を投げ出すのも私には抵抗感を感じるし、何よりも初対面でこいつに小馬鹿にされながら早々と辞めるのは癪に触る。
あと、もう一つさっきの庵の発言でとても気になるような一言があった。
「てか、さっき言ってたけど、レギオ以外にも弟とか妹がいるの?」
「まあな〜。ただ今日はそこまで大きい事件でもないし
レギオ一人だけだがな」
レギオ以外にも似たような魔物たちをこいつが兄弟として取りまとめてるなんて初めて会った時には想像もできなかったな。
「他に何人ぐらいいるの?その弟や妹たちは」
「レギオを合わせると6人だな。皆個性的でいい奴揃いで
私には勿体無いぐらいだ」
「へへ。そう言われると照れるな〜!兄さん」
本当にこの二人は互いを信頼しあっているんだな。
レギオの食べ終わった皿の上に庵はすぐに新しいピザの一切れを入れ、それを平らげ、少し喉に詰まらせているレギオをやれやれと言いながら背中を押してあげる庵とそれを
ピザを頬張りながら笑顔で答えているレギオは本当の兄弟以上に兄弟しているなと感じさせられる。
他の弟、妹はどんななんだろう。この光景を見ていると
自然とそういう気持ちが湧いてくる。
私たちはピザを食べ終わると時刻はもう23時近くとなっており、私は帰りのバスの時刻表をスマホで調べ、とりあえず家に帰ることにした。
ギリギリその時刻のバスに間に合うと一晩の間にここまでも劇的な出来事が立て続けに起こるものなのだとしみじみしながら、これからも頑張ろうと腹を括った。
ガチャっとマンションの玄関を開け、背伸びなどをして体を少しほぐした後に今日は疲れたし、シャワーを浴びるだけにしようと考えた。
〜10分後〜
シャワーを浴び終え、ドライヤーも済ませて、そのままベッドにダイブし、おもむろにスマホを覗く。
するとそこには一件の不在着信がある。
原田夕美
私のお母さんからの着信だった。すぐに折り返しの電話をかけると1分後には電話口からもしもし?とお母さんの応答する声が聞こえる。
「あ?お母さん?ごめん。さっきまでシャワー浴びてたから気づかなかった。どうしたの?」
「あら。ごめんね。なんだか玲香のことが心配になって」
ちなみに私はまだお母さんには出版社を辞めて転職したことは一言も言っていない。
「どう?お仕事の方は?上手く行ってる?」
お母さんにもたまに前職の悩みで相談したりすることはちょくちょくあった。その度にお母さんは私に優しい言葉をかけてくれる。
「うん。順調だよ。だから心配しないで」
お母さんにはあまり心配をかけたくない。だから今は転職ことは少し黙っておこうかな。
「そう。なら良かった。体にくれぐれも気をつけてね?じゃあおやすみ」
「うん。おやすみ」
そう会話を交わして電話を切り、私は明日の仕事に備えてすぐに寝ることにし、部屋の電気を消してそのまま気絶するように深い眠りについた。