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ダムの調査

「確か.....1週間前ぐらいだった記憶があります。私がここの管理所から帰路につくために駐車場に出たんですが、突然後ろの方から何かに見られてるような気配がしたのが始まりだったと思います......」


このダムの管理所の責任者である川村さんはこの事件の始まるから語り始め、そこから声が聞こえたとか湖のそこから何かモゾモゾと話し声が聞こえるとか言った類でほぼ全ての従業員が体験している出来事だという。

その実害からか最近では従業員の一人が飛び降り自殺を試みて失敗し、現在は入院して休職しているという被害まで広がってしまっているらしい。



「私も最初に体験した時は疲れから来る気のせいかと思ってたんですが、今でも時折視線のようなものを感じている感じでして。刑事さん。果たして解決できるんでしょうか?」


「ええ。心配いりませんよ。協力な助っ人の安倍庵先生と助手たちの柳生重成さんと赤塚翠さんも一緒ですので」


川村さんは私のことを先生と呼ぶ古賀さんに怪訝な表情を向け、さらにその視線は私に向かい、奇異なものへと代わり、一応私はよろしくお願いしますと発しておく。


「.....では刑事さんと先生?......方。どうぞこちらへ」


私たちはその奇妙な出来事が起きた管理所の道や湖の近くを案内され、昼間であるこの時間帯は特段他の人造湖と何ら変わりはないように感じる。

しかし、その事柄は全て夜に発生しており、今は現場をある程度把握して備えておく必要から生じたものだ。


「ん?」


「どうした?翠?」


人造湖の周りに敷かれる道路を進んでいるとドルジは集団から取り残されるようにその場に立ち尽くし、私はその訳を尋ねる。


「いや、このガードレールの下の方から何か聞こえた気がして......今は聞こえないから気のせいかもしれないけど」


ドルジのいうガードレールの眼下にはまさに個々に生えた植物群の間から目に入る湖底が雨の日の後の水溜まりのように輪をかけて広がっている。


「何が聞こえたんだ?」


「何か、呻き声?みたいな感じ。でも聞き取るのがやったみたいな声量だったから詳しくはわからない」


普通ならばこの程度の情報は瑣末なものとして片付けられそうだが、ドルジの耳は私たち兄妹の中で誰よりも優れた聴覚を持っており、その腕前は去年のスイカ割りで前人未到の10個連続割を成し遂げるほどだ。


余談はこれぐらいにして、それほどの聴力を有するドルジが聞き取ったという呻き声は単なる聞き違いと片付けて良いのか......。


「いや、もしかしたら今回の事件と関係があるかもしれない。一応頭の片隅には入れといた方がいいな」


わかったと首を振り、私の指示に賛意を示すドルジとは反対方向から先生ー!と古賀さんの拡声器を通したような大声が聞こえ、私たちは離されていた距離を一挙に縮めるため、足を早める。












◆◇◆◇


1時間もすると現場は一通り回ることができ、その印象としてはとても何か怪異が起きたようには感じられず、寂寞とした雰囲気ながらも長閑な風景というもので、私たちは管理所に戻り、問題となる夜になるまで待機することにした。幸い今日は従業員の人々は川村さん以外休みとしており、襲われる心配はないと想定される。


私はやはりドルジの聴いたという呻き声が気がかりとなっており、一体その正体はなんなのかと頭の中を駆け巡っている。私は思索に耽りながら管理所の外に設置されているトイレへと向かっていた。


「湖底の中からか.......」


「湖底がどうしたんです?兄」


「うわぁ!.......なんだお前か」


後ろから囁き声の襲撃を受けたかと思うとその正体は勘十郎であり、私の漏らした言葉を聞き取り、湖底について執拗に問うてきていた。


「さっき通ったところでドルジが何か呻き声のようなものが聞こえたって言っててな。ただ、それも空耳なのかどうかもわからん感じだ。私はドルジが空耳を気がかりにするとは到底思えんが」


勘十郎は私の話を聞くと顎に手を当てながら、う〜んと熟慮した後、ならばこうするのはどうでしょう?と策を持ちかける。


「兄。私が湖底に潜って確かめてきましょうか?」


勘十郎がこういった提案をしたことには理由がある。

実は勘十郎は槍技の他にも水泳を得意技として持っており、そこからこうした一見突拍子もないことに見えることを発言している。


「大丈夫か?あの湖底は甘く見ない方がいいぞ。最悪の場合、あの湖底の奈落に引き摺り込まれる可能性もある」


楽観論を捨て、あの湖底に見え隠れする恐ろしさを私は説いたが、勘十郎は一向に耳を貸さず、自分が行くことの有用性を語り、私も遂にその熱意に折れることになり、その提案を承諾した。


「だが、無理は絶対するなよ?やばいと思ったらすぐに湖底から地上に上がるんだ。約束できるか?」


「ええ。約束します」


こうして勘十郎はあの並々に注がれた湖底の中へと探索をすることに決定し、私は勘十郎の平穏を祈りながら、送り出すことにしていた。













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― 新着の感想 ―
物語は「湖底からの声」「視線の気配」「飛び降り未遂」といった不穏な兆候が積み重なり、読者にじわじわとした恐怖を植え付ける構成になっています。特に、ドルジの「優れた聴覚」という設定が効いていて、空耳かど…
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