湖底の呪い
「すいません。お忙しい中の先生を連れてきてしまって」
「いや、別に構いませんが......」
なぜ、私は今古賀さんの運転する車の隣の席に座っているかというと古賀さんが突然私の自宅前に車を止め、私に乗るように誘導して今に至る。
「うわぁ〜!すご!建物も人もアトラクションみたいに早く動いてる!」
「おい。あんまりはしゃぐなよ」
後部座席で騒ぎ、それを諌める者の構図を繰り広げているのは私の弟勘十郎と妹ドルジだ。まあ、古賀さんの前ではそれぞれ柳生重成と赤塚翠と言う名前で通しているが.....。
「ねえ。兄者!私車って乗るの初めてなんだよね〜」
「そうだったか?だけど、重成の言うようにあんまりはしゃぎすぎんなよ。すいません。古賀さん。迷惑かけてしまって」
「いえいえ。むしろ私の無理なお願いに先生を付き合わさせてしまってますから。これぐらいなんてことありませんよ」
その古賀さんの言うお願いとは私の自宅から車で2時間ほどのところにある人造湖の近くで何やら妙な出来事が多発しているらしく、その妙な出来事はどこからともなく声が聞こえてきたり、突然湖の水が波打ったり、気配を感じたりとダムの職員たちに実害はないまでもその出来事からバケモノが絡んでいる可能性も否定はできないものであった。
そして、今日に限ってあいつこと原田玲香は休日を過ごしており、わざわざ出勤させるほどではないと私は判断し、今回は勘十郎とドルジの二人を供として事件解決を図ることになった。
車は一気に都会から木々生い茂る場所へと容姿を変貌させ、道路もそれに比例するように狭さを増し、相変わらず後ろではドルジが初めての車の感覚に感銘を受け続けている。
「先生たち、あともう少しでこの近くのダムの管理所に着きますから今のうちに準備とかしておいてください」
いつのまにかもうすぐ到着という時間帯になり、早さに驚いているが、そのダムの管理所というところへの道の周りからは木々が一気に消散し、開けた視界の景色には下の方に人造湖の貯められて形成された湖が構えており、さほど広さや大きさはないまでも何かその濁った緑の中にある湖底の底知れなさは私たちに恐怖心を与えるのには十分だった。
「先生。あそこに見えるのが管理所です。あそこの責任者の川村さんにもすでに連絡してありますので」
上り坂を上りながら、上に聳え立つ管理所は徐々に視界の中の比重を拡大し、またその中にある駐車場も顔をヒョコッと覗かせる。
その駐車場に車を停め、私たちが車を降りると古賀さんの言っていた人物......川村さんが私たちを出迎えてくれ、その管理所の中へと案内をしてもらい、私たち4人は席に座り、川村さんも対岸の席へと腰をかける。
「では、川村さん。改めて今回の事件の詳細について教えていただけますか」
古賀さんが早速本題に入り、川村さんも今回の事件の概要を事細かく話し始めていた.......。




