表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/109

旅館への到着

やはり道路の舗装のなさは車体の傾き加減で体全体に伝わってきており、アトラクションに乗るように左右交互に揺れ動き、二人席での私の隣には庵が俯き加減で目線は自らの足を見つめており、どうやら若干のバス酔いに苦しめられていることが側から見ても如実に感じられる。


「大丈夫?庵。気分悪い?」


「......いや、どうもない」


相変わらずの強がりなところが悪い方向に表に出ており、私に背を向け、窓の外を眺め始める。


外はというと私がタクシーに乗ってからかなりの時間が経過しているが、その間に都会の灯りや煌びやかさは置いていかれ、代わりに山々に囲まれた大自然と所々に見える小さな集落群がぽつりぽつりと顔を覗かせる。

田舎出身ということもあり、私は妙に懐かしい気持ちがよぎり、大学のために地元を離れるまでの思い出の光景が次々に脳内の劇場で再生される。


「次は終点の三田代村前です....」


ようやく終点の三田代村に到着することがアナウンスされると、白粉を塗ったように顔が白くなっている庵はムクッと体を起こし、希望を見出したように顔の筋肉が少しほぐれていっていた。


「皆さん。忘れ物がないようにしといてくださいね。あと、バスを降りたら村まで少し歩かなければならないのでそこはご了承を」


荷物を確認した後、席順に一人一人バスから降りて行き、ほどよい自然の香りと絶妙な涼風が私たちを迎え入れる。


「あ〜ようやく解放された.....だが、帰りもあれに乗らなきゃならないのか....」


一人呟く庵はその気分の悪さから解放されたとはいえ、またもう一度その機会がやってくることへの失望を吐露する。


「皆さん、おそらく村長さんがお待ちになっているでしょうから、行きましょうか」


僅かに敷かれたアスファルトの道を進み、村長が待っているというところへ向かう。


「奥澤さん。そういえばさっき聞かなかったんですけど、もしかして今日って日帰りできない感じですか?」


「ええ.....一応最低一泊は考えてますけども」


「嘘!私着替え持ってきてないんだけど.....」


仰天した私の声は広大な無人の地に響き、奥澤さんは私の慌て具合に微笑しながら、答える。


「大丈夫ですよ。この村には一つ大きな旅館のようなものがありましてね。そこは一応衣服も全部揃えられてるんですよ。だから持ってきていなくても心配いりませんよ」


奥澤さんによるとそれは庵にはすでにそのことは伝えてあり、最低限の持ってくるものだけで事足りたようで私は大声を張り上げたことで顔の温度が明らかに上昇していくのがわかる。


「ね!兄さん!後でトランプしない?さっき新幹線でシスとやって結構盛り上がったからさ!」


「いや、私は疲れたからちょっと寝させてくれ」


「ええ〜!じゃあ、夜とかダメ?」


「兄上、1回ぐらいいいじゃないですか」


「はぁ〜。わかった。その代わり夜の1回だけな」


前を進む弟二人は兄に対し、交渉をして、その権利を獲得したことにはしゃぎ、どの種類のゲームを選択しようかと貴重な1回の機会に厳選を行なっている。


幸い紅潮した瞬間を庵に見られ、また突かれることにならずに済んだことで密かに二人への感謝の念が湧くが、奥に大きな建物が見え、その周りにポツポツと一軒家が立ち並んでいる。


「皆さん。あの大きな建物が旅館です。あそこで村長さんが待ってくれているはずです」


見た感じ、そこそこ良さげな旅館の雰囲気で、都会に立地してあったとしても遜色ないほどの巨大さも秘めている。少し、上り坂を上がっていくと入り口が見え、私たち以外には客がいる気配はほとんどなかった。


「私が先に行ってきますので、皆さんは少しここで待っていてください」


私たちが到着したことを伝えるため、奥澤さんは私たちを待たせないための配慮からか鼠のように瞬足でその旅館の中へと入っていく。


「ここら辺、都会と違って結構温暖な感じですね。兄上」


「そうだな。中々空気もうまい。おかげで少し気分が良くなってきたな」


庵とシスの掛け合いの後、レギオはこの後の泊まる旅館のことについて尋ねる。


「ねえ。兄上たち。部屋割とかどうする?流石に5人全員で同じ部屋は中々難しいだろうし」


「まあ、とりあえず旅館に入った後で決めればいいだろう。部屋も何部屋あるかわからんしな」


一旦部屋割は保留になると、すぐに奥澤さんも旅館から出てきて、私たちに入ってきてくださいと促すジェスチャーをする。


ガラガラッと立て付けの悪い扉を開けると古びた木の匂いが充満し、私たちは靴入れにそれぞれ入れ、旅館の中へ入っていく。


「皆さん。この方がここの村長である村田吉郎さんです」


「どうも。村長の村田と申します。遠路遥々ご苦労様でした」


軽く挨拶を交わした後、まずはそれぞれの荷物を部屋に置いてから詳しい話を聞くことにし、部屋割によって、私と庵、レギオとシス、そして奥澤さんに割り振られ、私たちはそれぞれに割り当てられた部屋へと向かっていった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ