孤村への道
私の視界に広がる風光明媚な景色はその背後で流れる車体の前進音と共に一つの映画のように移り変わっていき、トンネルに入り、背景が闇に覆われたかと思うと黎明を迎えたようにまた自然の緑と紺碧の空が浮かび上がる。
なぜ、このような情景を私が目にしているかというと早朝に庵や私たちを呼び出した奥澤輝人さんという人物が新たな取材先として指定した孤村....三田代村....の伝説を調べるために今その村へ向かうため新幹線に私たちは乗車している。切符はすでに奥澤さんが全員分用意しており、新幹線代は浮き、私はラッキーとばかりに余計な出費がかからないことをほくそ笑み、私の隣の窓側の席にはじっと外の景色を眺める庵がいる。
「ん?あの鳥はなんだ?中々雅な佇まいだな.....」
興奮しているのか、風景に映る一匹の鳥にすら饒舌になり、こういう子供っぽい一面も庵ですらあるということがよくわかる一場面だった。
私たちの席の後ろにはレギオとシス....ここでは大浦律と本庄周と呼んでおく.....が何やらトランプのようなカードゲームではしゃいでおり、その奥では奥澤さんが取材に向けた最終整理を一人黙々と進めている。
私は新幹線に乗る前、奥澤さんに一つ気になったことを尋ねた。
「あの....奥澤さん。なんで取材先に庵や私たちを誘ったんです?」
取材ならば最悪一人でも可能であり、ましてやバケモノが関連しているようには思われない。知り合いにしたって、庵の仕事も理解しているであろう奥澤さんがそれを押し除けてまで我を通すような人には私には見えなかった。
奥澤さんはどうやら庵には話をして納得を得ており、その訪れる孤村には仮面の女が現れ、それを見た者は皆死ぬか運良く生きれたとしても精神障害のようなものを患い、かつてのようには生活出来なくなるらしい。
いわばそのことを取材する上で護衛やその仮面な女の退治の役割を庵たちには期待していると説明を受ける。
「先生は怪物退治の専門家ですからな」
某特撮ヒーローのようなキャッチフレーズをあてがわれた庵ではあるが、こいつも自らの職権に関係ないと判断すれば、わざわざ遠方にまで着いてこないはずであるし、その仮面の女がもしかしたらバケモノたちと関連性があると踏んだのかもしれない。私は庵のその判断を信じることにした。
「おいおい!見てみろ玲香!奥に海が見えるぞ!」
私の服の裾を引っ張りながら、少年特有のはしゃぎを見せる庵に私はやれやれと辟易しながらもその風雅に太陽の光を吸収して波打つ大海の美しさに心奪われていないといえば嘘であり、庵の後ろからその風景をじっくりと観賞し、目的地に到着するのを待っていた。
◆◇◆◇
新幹線は目的地である三田代村から少し離れた花瓦駅に辿り着き、そこからさらにバスをいくつか乗り継いで、午後14時ごろには孤村へ到着する手筈となった。
バスでの移動を繰り返す度に景色は近代的なものから過疎的なものへ移り変わり、乗客や地元の人々も徐々にその姿を消していた。最後のバスに乗り継ぐため、一旦バスから降り、今から25分後に到着するバスに乗ればいよいよ目的地である三田代村へ到着する。
私たち以外にはバスを待つ人はおらず、そのバスの時刻表も手入れがされていないのか塗装は剥げ、一部にはカビも生えており、下にも蜘蛛の巣が張られ、記されている時刻表も片手で数えるほどのバスの運行量を表すのみだった。
「一応、事前に村の村長さんには連絡してありますので、とりあえずそこまで僕が先導しますので着いてきてください」
事前に村長に連絡していることを奥澤さんは伝え、私はもしかしたら、日帰りではなく宿泊という可能性も視野にあり、持ってきていない着替えのことなどが頭を支配するが、そんなことはお構いなしに十分に舗装されていない道路の向こうから古びたバスがこちらに向かってきているのが見えていた。




