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秘策の賭け

サラの言う秘策を庵に告げてから、相当数の時間が経過し、もうすぐで午後4時を回り、彼女が帰宅するであろう時間が差し迫っている。

当人であるサラはこの時間までにどこかにフラッと出かけていたが、集合場所である庵の自宅に集まり、荻原紫音の自宅に向かうまで、待機し、その出発直前になってようやく帰宅していた。


「ごめん!ごめん!ギリギリになっちゃって」


「サラ!どうしてたの?今まで」


私とは別行動を取り、詳細を知らせずに今までいたサラに私は狼狽ぶりを見せていたが、一方で後ろにいる庵は全く顔色を変えている気配はなく、何かサラの不在の理由について理解しているふうである。


「どうだ?サラ。勝つ見込みはあるのか?あの傲慢な女に」


「もちろん。負けるわけないから心配しないで」


よし。とそのサラの言葉を聞いただけで庵も確信を得たようで、その表情はキッと帯を締めるように引き締まる。


「そろそろ古賀さんが迎えに来るだろうから、それまで少し二人とも、休憩してろ」


警察側も協力を承諾してくれ、より一層あの子に対する包囲網は広がり、堀は着実に埋められていく形となる。

私も最後の戦いに備えて、息抜きをしようと、ソファーに身を預けようとする。


それとほぼ同時にピンポーンとチャイムが鳴らされ、庵は来た来たとインターフォンに向かって、テクテクと小さな体を走らせる。

私は驚いた衝撃で、ソファーに飛び込むように体を放り出してしまい、少し体に痛みが走る。


「おい。二人とも。準備するぞ」


「もう来たの.....今から息抜きしようと思ったのに」


「気の毒だが、その暇はもうなくなったみたいだ。行くぞ」


外に出ると古賀さんはどうぞ先生!といつもの庵に媚を売るような仕草を見せ、庵は助手席、私とサラは後部座席に乗り、一直線に荻原紫音の自宅へと急行した。


サラの見立てではどうやらあの子は本気で自分の能力が特別なものであると心酔し、それが別の者による手であるとは一切感じておらず、その力を使い続けて今日に至っていると見ている。

その見立てが仮に当たっているとすればあの子も一種の被害者ということもでき、その自らを縛る虚妄の鎖を私たちは解かなければならない責任がある。


そのためにも、この策は絶対に外すことはできない。

これを逃せばあの子を助けることもできず、また新たな予言の犠牲者も生み出すことになるという事態を招いてしまう。それを避けるためにも私はこの小さな動く箱の中で隣に座り、戦いの前とも思えないような涼しい表情を外の景観の観察に費やしている彼女に一抹の不安以上の巨大な期待を抱いていた。










◆◇◆◇


「はぁ......またあなたですか。そろそろいい加減にしないと私も怒りますよ」


リビングのテーブルを挟んでサラと対峙する荻原紫音は幾度となく自らの能力を懐疑的に見る私たちに敵意の目を剥き出しにする。


「ごめんねぇ〜。どうしても気になることがあって......どうかな?引き受けてくれる?私の願い」


「まあ.....別に断る謂れもないですけど.....でも、これで本当に最後ですよ?もしこれ以降何かまたいちゃもんをつけてくるなら、訴えることも視野に入れますから」


かなり強気な様子は数日前と全く変わっておらず、むしろその太々しさは倍増しているように思える。


「じゃあ、まずこの写真を見て」


サラは胸ポケットから一枚の写真を取り出し、スッーと彼女の前に置き、彼女もそれを手に取る。


「この人が何か?」


「いや、あなたはいつも予言をする時に自分から能動的に予言することがほとんどでしょ?だから今回は私の願いとしてその人のことを予言してほしいの.....あなたほどの予言者ならそれ程度訳ないと思うから提案してるの」


少し相手を挑発するような言葉の言い回しは未だ若い彼女を刺激したようで、わかりました。と初めての受動的な予言を引き受けた。しかし、それには条件がいると彼女は付け加える。


「ならば、一つ条件を提示します。もしあなたが提案した予言が当たれば、あなた方は何か対価として責任を取っていただけますか?幾度も私の能力にケチをつけたんですから、それぐらいは費用対効果としてしてもらわないと」


私はそのリスクある条件に驚嘆し、一人オドオドとしていたが、当人のサラは全くと言っていいほど動じておらず、むしろその提案は想定内であったかのような振る舞いを見せる。


「ええ。もちろん受けるわ。責任なら古賀さんが取ってくれるからそれでいいでしょ?」


「え!?.....またまた〜。先生とご一緒でご冗談がうまいですな〜」


古賀さんも寝耳に水の様子で、まさか冗談であるだろうと問いかけるが、サラの顔は真剣以外の何者でもない。


「無論、冗談ではないです。大丈夫。私を信じてください」


「古賀さん、大丈夫ですよ。仮に職を失ってもうちで養ってあげますよ」


軽くそう耳打ちする庵に対し、古賀さんは責任を被らないようにと必死に天に祈りを捧げる。しかし、二人ともここまで言わばふざけたような発言を口をするということはおそらく勝算が大ということを私も確信したが、不安が完全に払拭したかといえばそれは嘘になる。


「なら、さっさと始めますよ」


彼女も早くこの厄介な事柄を片付けることを優先し、今その写真を額に当て、彼女の言う予言の能力を引き出そうと躍起になり始め、私たちの最後の勝負が始まろうとしていた.....












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