あの子への罠
お湯を注いで、ある程度までコーヒーが出来上がると、すぐにサラ元へと運ぶ。
「ごめんね〜。わざわざコーヒーまで出してもらって」
「いいの!いいの!来客なんて私の友達以外来たことなかったからもてなすのは当然だよ」
「そうなの?じゃあ、私がこの部屋の来客2号目ってことか〜」
そして、出したばかりのコーヒーを口に注ぎ、私も自分に作ったコーヒーを飲みながら、近くに転がるリモコンを取って、テレビをつける。その時についたニュースでは案の定今話題のあの子の予言内容について持ちきりだった。
「やってるねぇ〜相変わらず。あの子も一躍スターに駆け上がったみたいね」
どこか皮肉混じりの言い方をするサラはコーヒーをくいっと一気に飲み上げると私が聞き出せなかったことをサラ自身から話し始めた。
「そういえば、さっき途中で話の腰折っちゃったけど、玲香ちゃんも私がエレベーターで言ったことの真意気になってるでしょ?」
「え?なんで?.....」
「顔に書いてあるし、さっきから私の方見て何か言いたそうな雰囲気出してたしね〜それぐらいわかるよ」
どうやら私の心情は全て、見透かされていたらしい。
サラにバレるほどに自分の感情が表に出ていたことに気恥ずかしさすら覚える。
「あのバケモノ、多分あの子の予言に関係してる可能性があるかもしれないってのがさっきの話の続き」
「あのバケモノが?てことは......あの子が予言してた殺人とかにも関わってるってこと?」
「もしかしたらね......そこでさ。私一つそれを確かめるために鎌をかけようと思うの」
そして、私のそば近くに寄って、そっとその仕掛ける内容についてサラの手によって閉ざされた空間の中で囁かれる。
「確かに.....それはやってみる価値がありそうかも」
「でしょ?多分、この時間なら兄様は寝てるだろうから明日にでも電話で伝えて、あの子の暴走を止めないと」
サラの提示する罠はおそらくあの子と関係のあるバケモノを洗い出し、その予言能力の虚妄を剥がすのに最も有効的だと思われるものだった。そのためには庵以外にも警察の力も借りることが求められ、時計は0時近くを回っており、明日早朝に庵への報告と警察への根回しを伝えることにし、私たちは明日の朝に備えることにした。
◆◇◆◇
「う〜ん.......」
何か夢を見ていたような気がするがそんな記憶は遠く彼方の脳の世界の片隅に置いてきており、騒がしいアラームと共にヒョコっと起き上がると、私の隣にはスピーっと呼吸を立てながら、よだれを頬に垂らしながら爆睡するサラが眠っている。流石の私も一人暮らしで持て余していたダブルベッドに他人を寝かせたのは今回が初めてだった。
サラはソファーで寝るからと最初は固辞していたが、流石に客人をソファーで寝させるわけにはいかないと互いによくわからない押し問答を繰り返して、妥協点で二人で寝るという選択肢を取った。
「まったく.....だらしない寝かた.....」
便利なものでサラの服は昨日の雨に濡れたままの服にも関わらず、昨日の時点ですっかり乾いてしまっており、むしろ洗濯をした後のような馥郁とした香りも漂わせていた。
私はサラを跨ぎながら、ベッドから降りるとスマホを取り出して、別室に移動し、庵に電話をかける。
プルルルと着信音が耳に鳴るが応答する様子はない。
もしかして、寝てるのかなと思っていた矢先にその電話口が開かれ、不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「なんだ......こんな朝っぱらから」
どうやら電話の音で叩き起こしてしまったようで、あくびをしていることも伝わってくる。
「実はね。昨日サラの提案であの子の予言のメッキを剥がせるかもしれないの」
「何?あの子の予言を?どうやって?」
少し驚いたのか、途端にハキハキと喋り出し、その内容について、エサをもらいたがる犬のように前のめりに策を聞き始める。
「それには、古賀さんたち警察の力も借りなきゃならないから庵にそれだけはお願いしたいの。できそう?」
「そんなことなら構わんさ。古賀さんたちもすぐ協力してくれるだろうな。で、その内容ってのを勿体ぶらずに早く聞かせろ」
急かす庵に少しムッとしながらも私はサラの提案したその作戦の内容と手順を順を追って話し始めた........




